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ピックアップの魔術師 Tim Shaw が語る、American Professionalシリーズのサウンドの秘密

アルニコマグネットを採用した、American Professionalシリーズのピックアップの特徴について知る

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2015年の秋、フェンダーが誇るピックアップのスペシャリストTim Shaw (正式な役職名はチーフ・エンジニア) は、ある重大な任務を与えられました。

当時フェンダーは、American Professionalシリーズのギターやベースの開発に着手したばかりでした。同プロジェクトにおいて、ピックアップの改良が重要な課題であったことは言うまでもありません。

熟考の結果、American Professionalシリーズにおいては、American Standardシリーズに使用されていたフェンダーのCustom Shopピックアップではなく、新たに開発されたV-ModピックアップとShawbuckerピックアップが採用されることになりました。

「American Standardのサウンドは、決して『時代遅れになった』わけではありません。でも我々は、そのサウンドに調整を加え、一歩先に進めたかったのです」フェンダー社傘下の様々なブランドで、ピックアップの開発に幾度となく携わってきたShawはこう話します。「過去数年間で、私は様々なタイプのマグネットによるサウンドの違いを、じっくりと検証してきました」

「American Professionalシリーズにおけるピックアップの開発にあたって、ブリッジ側とネック側、そしてその中間のポジションにおいてマグネットがどう反応するのか、私は長い時間をかけて研究しました。高級モデルの開発にあたって同様の実験を試みたことはありましたが、より高いシェアを誇るこのモデルにその技術を反映させることは、決して容易ではありませんでした」

その難題に正面から取り組んだShawは、様々なタイプのアルニコマグネットを試すだけでなく、各ピックアップにおける磁石の理想的な強度の特定にも取り組みました。その結果、StratocasterとTelecasterに採用されている3種類のアルニコマグネット (AlNico II、 AlNico III、 AlNico V) を組み合わせるというアイディアが採用されることになりました。このコンセプトはPrecision BassとJazz Bassにも生かされており、エンジニアのMichael Bumpによって改良されたピックアップが採用されています。またJazzmasterとJaguarには、Michael Frankの手によって新たに生まれ変わった、5つのアルニコマグネットからなるV-Modピックアップが採用されています。
こうして誕生したピックアップは、Shawの故郷であるナッシュビル、そしてカリフォルニアのコロナにあるフェンダーの工場で、何ヶ月にもわたって行われた研究と実験の成果です。

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「ストラトにおいて難しかったのは、各ピックアップの中間にあたるポジション2と4が、ピックアップのある3つのポジションと同じくらい重要な点でした」Sawはそう話す。「ポジション2と4の独特のテクスチャーを表現するのは簡単ではありません。そこで我々は、ミドルピックアップのマグネットの向きを変更することにしました。AlNico IIを6弦側に、AlNico Vを1弦側に配置することで、あのサウンドをクリアに鳴らすことができるのです」

「あの策は見事に功を奏しました。特にトレブル・ブリード・サーキットを採用しているモデルとの相性は抜群です」

Shawが新たに開発したハムバッカーのShawbucker 2をブリッジ側に、Shawbucker 1をネック側に配置したStratocaster HHにおいても、大きな課題に直面したと彼は話します。

「Shawbucker 2は、Shawbucker 1よりも遥かに優れているというわけではありませんが、両者を組み合わせることで理想的なバランスが生まれます」彼はそう話す。「とても機転の利くピックアップで、ボリュームを下げた時もトレブルを維持することができます」

American Professional Telecasterのピックアップでは、マグネットの配置がStratocasterのミドルピックアップの逆になっています。

「Telecasterのピックアップのクリアなサウンドは十分に素晴らしかったから、その改良には本当に心を砕きました」彼はそう話します。「6〜4弦にはAlNico Ⅴ、そして3〜1弦にはAlNico Ⅱが使われています。フロントピックアップのサウンドには問答無用のアイデンティティがあり、ブリッジ側のピックアップはどんな音色でも鳴らすことができます。どこまでも音楽的で唯一無二の音色を持ったギター、それがTelecasterなのです」

Stratocasterと頻繁に比較されるTelecasterですが、Shawbuckerピックアップを採用したDeluxeモデルには、オリジナルとは異なる個性があります。

「ボリュームとトーンのダイヤルが2つずつあって、それぞれを切り替えるための仕組みが回路に組み込まれています」Shawはそう話します。「また通常の6ポール式ではなく、片方に3ポールずつ配されたShawbuckerピックアップは、小ぶりでありながら広いレンジをカバーすることができます。Stratocaster HHに使用されているピックアップとは似て非なるものです」

無数の実験と研究がもたらした数々の改良によって、AlNico ⅡとAlNico Ⅴを搭載したPrecision BassとJazz Bassを含め、American Professionalシリーズのピックアップはさらなる高みに到達したのです。

「多くの人間が寝る間も惜しんで努力した成果です」Shawはそう話します。「このプロジェクトに携われたことを、とても嬉しく思っています。1年に20本しか生産されない高級ギターに生かされていた技術やアイディアを、1日に100本生産されるギターに反映させるのは、決して容易ではありませんでした。それだけに、とてもやりがいのあるプロジェクトでしたね」


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