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知られざるTelecaster Bass®誕生秘話
伝統あるフェンダーの歴史を飾る比類なきモデル
1968年にリリースされたTelecaster Bass®は、フェンダーの“リイシュー”第1号となったモデルという事実は除いても、フェンダーの歴史の中で特別な位置を占めています。
Telecaster Bassのリリースからかなり時間の過ぎた80年代、最先端を行くフェンダーは、その後に続くギター&ベースの優れたリイシューの第1号を作ろうとしていました。現在フェンダーのリイシューは、ラインナップの中から選びぬかれた多くの人気モデルで構成されています。しかし、フェンダーがCBSグループ下にあった60年代後半には、リイシューなどというアイディアは誰も思いつかないものでした。その頃フェンダーのデザイナーたちは、ベースの“新しいデザイン”を作るのではなく、過去を振り返ることを決めたのです。
そうして、ユニークなネーミングのTelecaster Bassが生まれたのです。同モデルは基本的に、Precision Bass®のオリジナル・バージョンのリイシューで、ギターのTelecasterとはほとんど関係がありません。もちろん、Telecaster特有のヘッドストックの形状を踏襲していますが、オリジナルのPrecision Bassも同じ形状をしているのです。
Telecaster Bassは、直系である革命的なPrecision Bassが51年のデビューから数年の間に、1度ならず2度もデザイン変更されたおかげで誕生したモデルといえます。最初の変更は54年で、続いて57年に大幅な変更が施されました。実際にその変更は大がかりなもので、57年以降のPrecision Bassは、オリジナルの1951年モデルとほとんど類似点がありません。
68年5月、長い間忘れ去られていたオリジナルの’51 Precisionのデザインが、フェンダーの“最新”モデルのベースとして復活したのです。
初期のPrecision Bass同様、Telecaster Bassは厚みのあるボディにシングルコイル・ピックアップが1セット搭載され、前述のTelecasterスタイルのヘッドストック、2サドル・ブリッジのストリング・スルー・ボディ・デザイン、大型のクローム・ブリッジとピックアップ・カバー、アッパー・バウト全体を覆うピックガード、Telecasterスタイルのクローム・プレート上に並んだコントロール類が備わっています。リリース当時の価格は302.5ドル(約3万4000円)で、Precision Bassの293.5ドル(約3万3000円)よりもやや高く設定されました。
68年モデルのTelecaster Bassと51年のPrecision Bassとの相違点は、はっきりとしたものではありません。Telecaster Bassのピックガードは、オリジナルのブラックではなくホワイトで、ストリング・フェルールが小ぶりでやや突き出ています(’51 Precisionのフェルールはボディと同じ高さに埋め込まれています)。Telecaster Bassはまた、2ピース・メイプル・キャップ・ネックで、“スカンク・ストライプ”は入っていません。ただし68年に作られたいくつかの後継モデルには、オリジナルのPrecision Bass同様、1ピース・メイプル・ネックが採用されました。また初期のいくつかのモデルには、66年のJazz Bass®と同じパドル型のフェンダー製チューナーが搭載されています。
Telecaster Bassの初期バージョンには、3種類の異なるヘッドストック・デカールが採用されていました。最初のものは、Telecasterギターのロゴと同じシルバーのデザインの下に“bass”の文字が刻まれています。このデカールが使われたのは、プロトタイプ・モデルのみでした。2番目のデカールは、ブラックの大きめなTelecaster Bassロゴで、“Bass”の文字は“Fender”と同じ文字スタイルでデザインされています。3番目が最も一般的なデカールで、シルバーのFenderロゴの下にサンセリフ体で“Telecaster Bass”の文字が配置されました。
68年版 Telecaster Bassはまた、フェンダーの悪名高きピンク・ペイズリーとブルー・フローラルのフィニッシュ・デザインでも一時的にリリースされました。トップとバックにペイズリーやフローラルのウォールペーパーを貼り付け、サイドはトップやバックとマッチするようにサンバーストの技術を使って濃淡をつけました。さらにボディ全体は厚いクリアコートで覆われています。
オリジナルのTelecaster Bassは、72年まで生産が続けられました。同年に大幅な変更が加えられ、実質的なニュー・モデルとして生まれ変わっています。
72年版ニュー・モデルと前のモデルとの違いは明らかです。最も顕著な相違点は、小型のシングルコイル・ピックアップを大型でパワフルなハムバッキング・ピックアップに交換した点でしょう。
シングルコイルで有名なフェンダーが、ハムバッキング・ピックアップに本腰を入れ始めたのは60年後半のこと。フェンダーは、ハムバッキングの発明者であるSeth Loverを67年にGibsonから引き抜きました。フェンダーでLoverは、新たなハムバッキング・ピックアップを設計し、Telecaster Thinline(71年版)、Telecaster Custom(72年版)、Telecaster Deluxe(73年版)等に採用されています。
変更が加えられた72年版Telecaster Bassもまた、Loverによる力作の恩恵を受けています。ピックアップ・タイプの変更により、ルックスもサウンドも大幅に変わったのです。また、ピックガードをローワー・バウトにまで拡張し、クローム製のコントロール・プレートを撤去しました。さらに、ティルト・アジャストメント付きの3ボルト・ネクプレート、ヘッドストック・エンド・アジャストメント付きビュレット・トラス・ロッド等が変更されています。ヘッドストック・デカールはシルバーからゴールドに変えられ、ブラックのアウトラインが施されています。
Telecaster Bassのセカンド・バージョンは、79年に生産終了するまで同じデザインでリリースされ続けました。
オリジナル・バージョンのデザインが再び登場したのは94年のこと。フェンダー・ジャパンが同年に’51 Precision Bassのリイシュー版をリリースしましたが、同モデルは即ち、Telecaster Bass 68—71年モデルのリイシューとも言えます。同モデルには50年代初頭のPrecision Bassに使われていたものと同じ、年代に合わせた大型のストリング・フェルールを採用しています。現在も入手可能な同モデルはその後、少しずつ改良が加えられ、Mike Dirnt Precision BassやSting Precision Bassとしてリリースされています。
Telecaster Bassセカンド・バージョンのデザインは、2007年春に復活しました。同年、フェンダーの廉価版ブランドのスクワイヤーが、Vintage Modified Precision Bass TBをリリースしたのです。同モデルには、大型のハムバッキング・ピックアップと広いピックガード、72-79モデルを継承したTelecasterスタイルのヘッドストックが採用されています。
Telecaster Bassのオリジナル・モデルは市場で成功したとは言い難いものの、格別なロック・ベースとして根強い人気があり、コンディションの良いモデルはヴィンテージ市場で高値がつけられています。同モデルの愛用者には、チャーリー・タマハイ(Be-Bop Deluxe)、ポール・マクギガン(Oasis)、ヴィクターダミアーニ(Cake)、ダスティ・ヒル(ZZ Top)、ジョージ・ポーター Jr.(Meters)、ロン・ウッド (Jeff Beck Group)、ルー・バーロウ(Dinosaur Jr.)、マイク・ダーント (Green Day)らが名を連ねています。