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救われたサウンド:ダブリンのハーペニー橋がギターへと生まれ変わるまで

アイルランドのハーペニー橋にまつわるロックの歴史と、その魂を宿したギターの物語

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1816年の開通以来、アイルランドのダブリン市内を流れるリフィー川にかかったハーペニー橋は、無数の人々を川の向こう側に渡してきました。あまり知られていないことですが、その中には誰もが知るバンドのメンバーも含まれています。

1980年代初頭、U2の名前は世界中に轟き始めていました。ちょうどその頃、ボノ、ジ・エッジ、ラリー・マレンJr.、 アダム・クレイトンの4人はこのダブリンの名所を舞台に、後に広く知られることになる写真を撮影しています。また、Thin Lizzyのフィル・ライノットが1982年に発表したシングル、『This Old Town』のミュージックビデオにもこの橋が登場します。


アイルランドの伝説的ブルースマン、ロリー・ギャラガーは、母国で過ごした少年時代にハーペニー橋を幾度となく渡ったに違いありません。

そのハーペニー橋に使われていた木の一部は、フェンダーカスタムショップが誇るマスタービルダー、ジョン・クルーズの手によって、超希少モデルのIrish Roots Telecaster RelicとIrish Roots Stratocaster Relicへと生まれ変わりました。

美しいアーチを描くその橋は、あのタイタニック号を設計したことで知られる企業Harland and Wolfによって、2001年に改修工事が施されました。工事の際に発生した木材の多くは同社が買い取り、オブジェとして世界中のバーのオーナーに譲られることになり、そしてその一部は、フェンダーが誇る木のスペシャリストであるマイク・ボーンの手に渡りました。

「優れた木を見抜く能力に長けたマイクが、ある日カスタムショップの工房にやってきて、ハーペニー橋に使われていた木を買い取ったと言ってきたんだ」そう話すジョンは当時、ストラトキャスターの名手として知られるアイルランド人ギタリスト、ゲイリー・ムーアの限定シグネチャーモデルのデザインに取り組んでいました。「アイルランドという共通項を持つこの2つの巡り合わせは、まさに運命だと思った」

「当初その木はアンプか何かに使われる予定だったんだけど、僕はギターに使うべきだと主張した。問題はその木をどれだけ得られるかということだった。結果的に、我々はギター2本分の木を確保したんだ」


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The Irish Roots Stratocaster (L) and Telecaster Relic.


その木を目にした瞬間、ジョンはその虜になったと話します。

「損傷はひどかったけれど、それを補って余るだけの魅力があった」彼はそう話します。「釘やネジの穴も、そのままの状態で使うことにしたんだ。加工するにあたって、まず表面を少し削らないといけなかった。手に棘が刺さって破傷風になるといけないからね。ただ組み合わせた木からボディを削り出すと、まるで真新しい木のようになったから、たくさんのオイルと土を使って、残りの木と同じような風合いを出そうと努めた」

またハーペニー橋の一部から作られたこのTelecasterとStratocasterには、当時のアイルランドにおいて橋の通行料として徴収されるはずだった、本物のイギリスの半ペニーが使用されています。

テレキャスターとストラトのブリッジの下に埋め込まれた半ペニーは、それぞれ1916年と1917年に発行されています。

この2本のギターは、カリフォルニアのアナハイムで開催された2017年のNAMMショーで初お披露目されました。このマスターピースを目にした人々の反応に、ジョンはとても満足したと話しています。

「本当に優れたギターが生まれると、自分のものにしたいと思うものなんだ。この2本を両方とも自分のコレクションに加えられたら…そう思ったよ」彼はそう話します。「多くの人が実際に手にとって弾いていたけど、反響は素晴らしかった。このギターには、音楽史に名を残す偉人たちが愛したハーペニー橋の魂が宿っているんだ。このプロジェクトに携われたことを誇りに思っているよ」