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“キング・オブ・フィール” 56年間フェンダーを支えたネック職人

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ハービー・ガステラムは、“クイーン・オブ・トーン”と呼ばれたピックアップ職人アビゲイル・イバラと並び、正にネックの“キング・オブ・フィール”でした。

2017年11月16日、彼は王位を後継者たちへ譲ることを発表し、56年間に渡るフェンダーでのキャリアに終止符を打ちました。

「ここを離れたら友人たちや仕事が恋しくなるでしょう」とハービーは述べています。「フェンダーでの仕事は本当に楽しかった。18歳からここで働き始める人たちを見てきました。それらの人たちを忘れることはないでしょう。皆が家族なのです」

77歳になるハービーは、1961年からフェンダーのフラートン工場の磨き・つや出し(Buff and Polish)部門で働き始めました。同工場はかつて、レイモンド・ストリートとイースト・ストリートの交差点にありました。彼のフェンダーでのストーリーは仕事愛そのもので、職人技への愛、ブランドへの愛、後に彼の最初の妻となる同僚への愛に溢れていたのです。

「ブエナパークに親戚がいて、その近所に住む女の子と付き合っていました」と彼は振り返ります。「彼女の姉妹が50年代にフェンダーで働いたことがあり、私にフェンダーで働く気はないか、と聞いてきたのです。それをきっかけに私は職を得たのです。結局その女の子とは結婚までには至りませんでしたが、フェンダーに就職でき、後に妻となるマリアと出会いました。正にラブストーリーですね」その「愛」は彼の仕事全般に行き渡り、すぐに世界へも広がりました。

「ハービーほど私の印象に残った人はいませんでした」と、現在はフェンダーのコンサルタントを務める伝説のジョン・チェリーは言います。「“ネックと言えばハービー”というほど、彼の仕事の質は素晴らしく高かったのです」

ジョンは1969年から、フラートンにあったフェンダーのキャビネットショップのパートタイム労働者として働き始めました。その後出世し、コロナ工場の副社長(2002〜2009年)も務めました。彼が初めてハービーと出会ったのは1972年のことでした。返品に関する定期報告会の際、あるディーラーが彼に聞いたのです。「なぜすべてのネックを“H. Gastelum”製にしないのですか?」

「ギター・ネックはギターをプレイするのに欠かせないもの」とジョンは言います。「ギター・プレイヤーであれば誰でも、ネックの重要性を認識しています。ディーターを含むギターに関わる人たちは皆、ネックに注目しているのです。だからこそハービーのネックは、最高なものとして知られていました」

磨き・つや出し部門の後、ハービーはメタルショップを経てネック部門へ転属しました。そこで天職を得た彼は、40年間ネック一筋に仕事を続けました。
「ネックで最も大切なのは、“フィール(感触)”です」とハービーは言います。「ギターを弾く人であればすぐにわかるでしょう。例えば、私はサイド周りのバンプやフラットスポットを感じ取ることができます。 “どうしてそれがわかるのですか?”とほかの人によく聞かれます。私はネックに没頭しているので、わかるのです。経験を積むことが必要だと、人には言っています」

ハービーは、フェンダーでの後半の時期をCustom Shopで過ごし、彼の魔法で伝説のパーツを生み出しました。

さらにCustom Shopでは、Custom Shopマスタービルダーのジョン・クルーズら最高の弟子たちが育ちました。

「ネック作りはすべてハービーから学びました」とジョン・クルーズは言います。「私のキャリアの早い時期に彼に師事できたことは、貴重な経験でした。ハービーは、“ネックでリズムを作り出せ”と言い、私に自信を与えてくれました。(彼が去ることは)フェンダーの歴史の中でも寂しい一章になりますが、我々が成し遂げてきたことは誇りに思います」

フェンダーCEOのアンディ・ムーニーは、ハービーが世界中のミュージシャンへ届けた、フェンダー71年の歴史の中で輝く忘れがたい才能について、コメントを出しています。

「レオ・フェンダーはかつて、“すべてのアーティストは天使です。そして私の仕事は、彼らに飛ぶための翼を与えることです”と言いました」とアンディは言います。「ハービーはこの会社で最も長く、約60年に渡り、天使のための翼を作り続けました。ハービーは長い間、フェンダーと多くのアーティストのために尽くしてきました。彼に感謝し、引退後の生活を楽しんで欲しいと思います」

フェンダーのCPOであるリチャード・マクドナルドは、ハービーの作品が世界的なロックのレジェンドたちにも使われていることに言及しています。

「彼が長年に渡って成し遂げてきたことを考えると、自分がちっぽけに見えます」とリチャードは言います。「彼の軌跡はここかしこに見られます。彼の仕事はジミ・ヘンドリックス、エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、リッチー・ブラックモアなどアイコン的なアーティストたちのキャリアを支えてきました。フェンダーの歴史は、ハービーの技術と才能と共に歩んできたのです」

ハービーはフェンダー在職時にギター・プレイを学ぶことはありませんでしたが、彼はまだ遅くはないと言います。

「私は引退したので、学ぶ時間はたっぷりあります。まずはネックがちゃんとしているかチェックしてしまうのでしょうね」と彼は言います。

そしてもちろん彼は、ネックの良し悪しを見抜くことでしょう。