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加藤隆志 インタビュー「ミッドローをしっかり出せるアンプ」

フェンダーのギターアンプといえば「ツインリバーブ」。この名機にスポットを当てた特別企画。第1回は東京スカパラダイスオーケストラの加藤隆志の登場です。

Twin Reverb

1963年、大会場でのコンサート/ライブに対応できる高出力アンプとして華々しいデビューを飾ったTwin Reverb。鐘の音のように美しく澄んだクリーントーンは“ベルサウンド”と形容され、ウォームで奥行きのあるアナログリバーブも相まって不朽の名機として君臨している。 

サウンドやプレイ含めて、問答無用のカッコいいギターを体現できるミュージシャンは数少ないが、東京スカパラダイスオーケストラの加藤隆志は間違いなくその一人だ。理想のギターサウンドを追求するために、アマチュア時代からアンプは欠かさなかったという加藤。サウンドとプレイは表裏一体であり、そのためにギターとアンプのマッチングにこだわってきた。そして出会ったのが、ツインリバーブである。今もステージで愛用するFender USA 1964年製 Twin Reverb Black Faceとともに語ってくれた。

コンパクトなルックスなのに、大きいアンプに負けていない
 

―  住宅環境のせいなのか、自宅でアンプを使ってギターを鳴らす人たちが最近は少ないみたいなんです。フェンダー的にはエレキギターはやっぱり大きい音でガツンと鳴らしてほしいので、複雑な心境なのですが。

加藤隆志(以下、加藤)   分かります。ステージに立つギタリストも最近はイヤモニ(イヤーモニター)の人が増えていて、外音は爆音なのにステージ上では小さい音でプレイしてたりする。僕の場合、アンプの音量はドラムの生音に対して調整していく。例えば、欣ちゃん(茂木欣一)の時はツインリバーブのVOLUMEの目盛りで「3」、中村達也さんだと「4」みたいな。僕はイヤモニを使わないんだけど、ドラムはほぼモニターに返さないんです。ステージでは自分の隣にドラムセットがあるので。だから、ドラムの生音に合わせてギターの音量を設定するっていうのが、まずベーシックにはある。ドラムより大きな音にはしないです。

―  前からそういうやり方だったんですか?

加藤   昔はレコーディングと同じような発想で、ステージ上でガンガン鳴らすのがいいと思っていて。アンプ本来の歪みにこだわってたんですけど、転機があったんですよ。2003年にLOSALIOSで土屋昌巳さんとご一緒したとき、土屋さんって音がすごく小さくて。小さいっていうか、今思うとドラムに合わせた適正な音量だった。で、ライン録りした音を聴くと、僕の音より土屋さんの音の方が太くて、そのときにギターサウンドの太さっていうのは音量じゃないんだなっていうことに気づき、ちょっと意識改革させられたんです。アンプ以外にペダルを使って歪みを作るようになったきっかけでもありますね。今の自分が使ってるストラトのサウンドの歪みは、ほとんどペダルによるもので、ツインリバーブは、まさしくギターアンプというか、スピーカーとして使っている感覚です。

ツマミの目盛りを交えながら話すと、よくありがちなのが、ロー(低域)を感じたいからBASSを上げていくパターン。でも実はギターで一番大事なのは土屋さんもおっしゃってるんだけど、ミッドロー(中低域)なんだよね。で、ツインリバーブのBASSのローの帯域っていうのは、僕はどっちかというとカットする方が多い。聴感上ではBASSを上げた方が太く感じるんだけど、マイクで増幅させたときに、一番美味しいミッドローの部分、まあマグロで言うとトロの部分が隠れてしまう(笑)。

―  (笑)なるほど。

加藤   よく「加藤さんのストラトって、リアがすごい太いですね」って言われるんだけど、今言ったことを踏まえてアンプのセッティングをしているからだと思う。皆のセッティングを見てみると、逆にBASSを持ち上げすぎでドンシャリになってるというか、ハイ(高域)とローしかないから、ミッドローが失われてる感じがするんです。ライブでの聴感上でのモニタリングの音と、マイクで録ってる音って実際はイメージと違うことがすごく多いから、ステージの外に出てる音の感じでチューニングしていくと良いと思いますね。

―  ツインリバーブに出会ったきっかけは何だったんですか?

加藤   加藤 ライブハウスだったかな。最初はすごく苦手で、他のメーカーのアンプを使ってた(笑)。でも、どこかのライブハウスで大当たりのツインリバーブがあって、「ツインリバーブってこういう音なんだ!」と思って、そこからはギターサウンドの基本形みたいな感じで接してます。ただ、最初に買ったのはいわゆるブティック・アンプと呼ばれるやつで、その頃は歪みを求めていたからなんだけど、弾いてるうちに自分はローミッドが一番気持ちいいポイントなんだなと気づいて。そこからツインリバーブを本格的に探し始めて、64年製のツインリバーブと出会ったんです。で、しばらく使ってなかった時期もあったんですけど、2〜3年前にもう一回ツインリバーブを使ってみようと思って鳴らしてみたら、やっぱり凄いなと。フェスとか行ってガーンって出したりするけど、こんなコンパクトなルックスなのに大きいアンプにぜんぜん負けてないしね。

自分のスタイルを見つけるためにアンプは必要
 

―  ツインリバーブを使っているギタリストで思い浮かぶアーティストって誰かいます?

加藤   簡単なところで言うとディック・デイルとか。スカパラに加入した後にツインリバーブ欲しいなと思ったわけなんだけど、それはサーフロックの影響は結構デカいかもしれない。ベンチャーズとかね。

―  加藤さんは今もアンプのリバーブとか使ったりするんですか。

加藤   使うこともあります。ライブのときは使い勝手の良いペダルが多いけど、レコーディングのときはよく使います。

―  ツインリバーブというか、フェンダーアンプのリバーブ自体も特徴的ですよね。

加藤   レコーディングの際、キーボードのアンプとして使ったりするケースも実際にあるし、やっぱりこのリバーブにしか出せない味があるからね。

―  理想のギターサウンドを手に入れるには、ギターとアンプをセットで考えるべきだと思いますか?

加藤   最近はアンプシュミレーターが発達してきてるから、ラインでダイレクトボックスに入れて、作ってきた音色で鳴らすという発想の人も多いと思う。でも、自分のスタイルを見つけるためにはギターとアンプがセットじゃないと、ピッキングやタッチがなかなか決まらない。その2つは、アンプや歪みとの関係性が左右するので。だからやっぱり、ある程度の音量でギターを練習した方が絶対にうまくなるだろうね。僕も自分の音が固まるまで、若い頃はアンプをスタジオに持って行ってたから。家でギターの運指を練習する人ってすごく多いと思うんだけど、小さい音で出すのと大きい音で出すのとでは捉え方が変わってくると思うし、部屋の中での歪みとスタジオの中での歪みもまた違うから、いずれにせよアンプを使ってみないと分からないことがたくさんある。それと同時に自分でどういうペダルが必要なのか分かってくるだろうしね。

―  自分のアンプをリハスタまで運んでたんですか?

加藤   アマチュア時代はタクシーで運んでた(笑)。車もなかったし、ボロいアパートに置いてあった自分のアンプを大きい通りまで持って行って、タクシーつかまえて積んでました。それぐらいこだわりたかったのは、さっきも言ったけどタッチの問題。自分がどういう音を出すギタリストになるかっていうのを知るまでは、ずっとそれを続けてた。おかげさまで相当鍛えられました。

―  自分もフェンダーに入社して1〜2年目ぐらいで、改めてアンプってすごく大事なんだなって思いました。

加藤   ビザールギターもそうだけど、ギター自体は一つ一つそれぞれ個性があるものだと思っているから、どんなにクセがあっても認められる。ギターはちゃんと調整してあげれば弾き手の個性になるんだけど、ボロいアンプはやっぱり認められないよね(笑)。

―  アハハ。

加藤   大きい音をコントロールできる人っていうのは、同時に小さい音の存在も知っている人だと思うんです。小さい音と大きい音のダイナミクスレンジを手元でコントロールできる人は、アレンジも然りなんだけど、優れたギタリストだと思う。イヤモニ的な発想でPAの人に上げ下げしてもらうっていう方法は、現代っぽいやり方だと思う。だけどそれしか出来ない人のタッチは一定だから聴いていても面白みに欠けるし、すぐに分かる。間近で見たときに「あのストロークの仕方だと、たぶんちゃんと大きい音が出せないんだろうな」ってね。

―  今回の特集に出演してくれるギタリストの皆さんへの共通質問なんですが、ギターとアンプの音って何対何の割合で成り立っていますか?

加藤   面白い質問ですね。うーん、6:4にしておこうかな。アンプ6でギターが4。ギター本来の音を増幅させるって一面もあるけど、それでも8:2っていう感じでもないですし。考えれば考えるほど面白いですね。


Twin Reverb

’65 Twin Reverb®
加藤が所有する1964年製のツインリバーブ。フェンダートーンを決定付けた、多くの音楽スタジオにも常備されている名機。出力は85Wでスピーカーは12インチJENSEN C12K×2発。真空管はECC83S×4、12AT7×2、6L6×4という構成。NORMAL/VIBRATOの2チャンネル仕様で、それぞれにハイゲインのインプット1、ローゲインのインプット2という2つの入力端子を装備。クリーントーンは恐ろしいほどピュアで、現在に至るまで数多のギタリストを虜にし続けている。最大の特徴は、底に仕込まれたスプリングによる太く温かなリバーブ効果。どんなアンプやエフェクターにも真似できない圧倒的な奥行きで、トーン自体にも温かみが付加されるため常にかけた状態で使用するギタリストも少なくない。

Twin Reverb

「ツインリバーブに限らず、ツマミを設定する際はすべて“5”にします。ドラムに合わせてVOLUMEを決めたら、次は歪み。ツインリバーブ特有のクセをカットしていく感じですね。ジャリジャリしているようだったらTREBLEをカットして、ローミッドが欲しい場合はBASSをカットしてからVOLUMEをちょっと上げる。あと意外とみんな気づいてないのが、TREBLEとMIDDLEとBASSの帯域がアンプによって違うってこと。なので、まずは全部を“0”にして弾いてみて、どの帯域が持ち上がるかっていうのを知った方がいいです」

› '65 TWIN REVERB®製品ページ


加藤隆志
1971年9月20日生まれ、鳥取県出身の日本のミュージシャン/ギタリスト。2000年より東京スカパラダイスオーケストラのギタリストとして正式加入。以降、精力的に活動している。中村達也のソロプロジェクト、LOSALIOSにも参加。スカパラの茂木欣一、柏原譲(FISHMANS/Polaris)とともにSo many tearsとしても活動中。

› 東京スカパラダイスオーケストラ:https://www.tokyoska.net/