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作曲ツールという点で見たギターの可能性|津野米咲 インタビュー【前編】

8月23日に通算4枚目となるアルバム『熱唱サマー』をリリースする赤い公園。バンドの頭脳を司るギタリスト、津野米咲のインタビューをお届け。

maisa-tsuno

女性4人組ロックバンド、赤い公園が前作『純情ランドセル』からおよそ1年ぶりとなる、通算4枚目のアルバム『熱唱サマー』をリリースする。前作に引き続き、亀田誠治、蔦谷好位置、PABLOa.k.a.WTF!?ら豪華なプロデューサーが名を連ね、さらにセルフ・プロデュースによる8曲が収録された本作は、ギラギラとした夏の輝きがそのまま封じ込められたような、タイトル通り熱く煮えたぎるアルバムとなった。

実は、本作を持ってヴォーカルの佐藤千明がバンドを脱退することを発表。今後、赤い公園は3人編成でやっていくという。アルバムの全ての作詞作曲を手掛けるバンドの頭脳であり、唯一無二の存在を放つギタリスト・津野米咲は、自分たちの未来をどう見据えているのだろうか。アルバムのこと、ギターのことなどと共に、ざっくばらんに聞いてみた。

「今までの延長線上で、さらにいいものを作ろう」というマインドで臨みました。
 

―  まずは通算4枚目となるアルバム『熱唱サマー』の、テーマやサウンド・コンセプトを教えてもらえますか?

津野米咲(以下、津野)   「全曲サビ歌える」という、やんわりとしたテーマがありました。もちろん前作でも同じようなことを考えながら、さらに盛り込みたい要素とのバランスを取りつつ作っていったんですけど、今回は他の楽器のことは取り敢えず気にせず、まずは歌、歌詞、メロディという要素に全力を注いでいこうと。そういうテーマのもとに曲を集めたり、新たに書いたりしましたね。歌詞とメロディがしっかり決まったからこそ、アレンジはよりメチャクチャになっている曲もあります。セルフ・プロデュースの曲が増えたのもあって、調子に乗っていろんな音を入れたりしています(笑)。

―  そういう方向性に向かったきっかけは?

津野   前作を出した時も、その前も、出すたびに「より良いものを作ろう」と目指していたし、自分なりにベストを尽くしてきたんですけど、そこで「今までにない何か新しいことをやろう」と思っていたのが、今作はちょっとだけ変わって。「今までの延長線上で、さらにいいものを作ろう」みたいな。ちょっとスポーツマンっぽいマインドになったんですよね。

―  「全く新しい別ヴァージョンを作る」というよりは、「ヴァージョンアップさせる」みたいな。

津野   そうなんです。これまでの作品をいろいろと精査して、「どこが私たちのいいところなのだろう」「どこまでが本当にこだわっている部分なのだろう」みたいなことを考えてみました。そのために、歌とメロディだけに芯を置いて、それ以外は一旦全て手放してみたというか。そうしたらこんなアルバムになりました(笑)。

―  前回に引き続き、亀田誠治さん、蔦谷好位置さん、PABLOa.k.a.WTF!?と、豪華なプロデューサー陣が並んでいます。前回のPABLOさんの「デイドリーム」も最高でしたが、今回の「最後の花」のストリングスも狂っていますね。

津野   狂ってますよねえ(笑)。「デイドリーム」も「最後の花」も、ストリングスアレンジを手がけてくださったのが堀向彦輝さんで。弦のレコーディングにも立ち会わせてもらったんですが、あまりにも気持ち悪いラインを作ってくれて。「なんだ、最高!」って思って楽譜をいただき、家に帰って1パートずつ鍵盤で弾きながら「ムフフフ」ってなっていました(笑)。

―  (笑)。蔦谷さんがプロデュースした「闇夜に提灯」の、EDMのようなアレンジもインパクト大です。

津野   いつもは私が自宅で作ったデモを、プロデューサーにお渡ししてそこからアレンジを考えてもらうのですが、あの曲はバンドメンバーと合宿した時にレコーディングした、かなりロックバンド然としたヴァージョンのデモを蔦谷さんにお送りして。「どんな風にアレンジしてくれるんだろう?」と思って楽しみにしていたら、EDMになって帰ってきて。「まじウケる、採用!」と(笑)。

―  では、津野さんの曲作りの方法を教えてもらえますか? まずは鍵盤から作ることが多いと以前聞きましたが。

津野   それが、最近はギターから作る曲も結構増えてきました。例えば「journey」という曲は、生まれて初めてアコギ1本で曲を作ってみたんです。やっぱり、鍵盤で作る時とはコードの運びが変わってきますね。私が鍵盤から作るのが多いのも、決してそれが得意だからというわけではなくて。まず「ハ長調」とか「ト長調」とか、黒鍵少なめのキーで作ってから、歌に合わせて後でMIDIトランスポーズするということを、いつもしているんです。鍵盤だと半音だけ移調するとか結構面倒臭いんですが、その点ギターの場合、押さえるフォームは同じまま、フレットだけ移動すれば移調できるから便利ですよね。

―  なるほど、鍵盤で作る場合とギターで作る場合、それぞれ一長一短なのですね。コードの運びが違ってくると、やはりそこに乗せるメロディも変わってくるのですか?

津野   はい。そこは自分にとって新鮮な体験でした。他にも、「カメレオン」「ジョーカー」「勇敢なこども」は、エレキギターから作っています。いずれにしても、ある程度コードが決まったら一旦DAWソフトに打ち込んでいきますね。

―  「セミロング」の、予測不能なコード展開はもうまさに“津野さん節全開”という感じですが、この曲はどうやって作っているのですか?

津野   最初にメロディやコードではなく、珍しく歌詞の内容から作りました。ずっと腹が立っていたことがあったんですよ。「私は髪をバッサリ切って、生まれ変わるの」なんて言ってる奴ほど、実はそんなにバッサリいってないということに(笑)。それはもちろん、自分にも思い当たるフシがあるんですけどね。なんとか曲のテーマにならないかなと思って、ずっと温めていました。自分を含め、女性に対する不信感が止まらなくなった曲です(笑)。

―  髪を切るということへの「決意」と「未練」が入り混じっている女性の心理は、計算高くもあるし可愛らしくもありますね。曲の作り方も、いろいろバリエーションが出てきましたね。

津野   そうですね。最近は、「どの作り方がメイン」と言えないくらい、いろんな作り方をするようになりました。ベースから作る曲もありますし、リズムからの曲もあります。

―  そう言えば、前作の「ショートホープ」という曲は、実際にスタジオでドラムを叩きながら作って、手グセから解放されようと試みたとおっしゃっていました。

津野   そうですね。「自分を飽きさせない」というのが大事。すぐ飽きてしまう性格なので、自分の打ち込みの手グセみたいなものが死ぬほど嫌になってくると(笑)、スタジオへ行って叩けもしないドラムを叩いてみたり。すると、叩けないぶん余計なことをしなくて済むというか。後から凝っていくことはいくらでもできるんですけど、最初から凝り始めてしまうと、進むのも遅いし力が分散してしまうと思うんです。それで曲の印象が弱まることもあるので、まずはシンプルに始めたいと思ったら、自分にとって不自由な楽器を手に取って、制限のある中で作ってみる。そうすると、メロディに気合が入っていくんじゃないかなと。

―  それが、先ほど話してくださった「一旦全て手放してみる」ということなんですね。そうやって作ったフレーズや和音を、最終的に再びギターフレーズへ落とし込んでいくと思うのですが、それはどのように行なっているんでしょうか。

津野   もう、そこがいつも大変で。ほとんどギターを最後に作っているんですけど、憂鬱ですね。すっごい憂鬱(笑)。「もう、ギター要らなくね?」って思っちゃう。

―  (笑)。

津野   曲によって、ギターの音量も、弾く割合も、必要な分量が違うと思うんですよ、ギターは特に。なくていいところは本当に弾いてないです。休んでますね。例えば「最後の花」とか、歪んだギターが遠くで鳴っていますが、ほとんど聴こえないレベルだし。主張するところは主張し、そうじゃないところはちゃんと引っ込む。フラッとやって来てフラッと弾いて、いつの間にかいなくなるみたいなギターの存在感は、個人的には大好きです。

―  ということは、ギターの音色などもデモの段階で結構頭の中にあるのですか?

津野   いや、そこはバンドで合わせてみたいと感覚がつかめないので、まずはメンバーにデモを渡して、出て欲しいスピード感などはスタジオでセッションしながら決めていきます。

―  出て欲しいスピード感?

津野   曲の中での、場面の切り替わり方みたいなことですかね。ぬるっと切替わる場合もあれば、スパーン!と切り替わる場合もあるし、一瞬「暗転」があっての切り替わりもあったりして。曲の中で川の流れが変わるみたいなものは、打ち込みだとイメージしにくいんです。「ここは本当にギターが要るのか?」ということも、セッションの中で判断していくことが多いです。それに今回は、本チャンのレコーディング中に決めたことも多いですね。メンバーの演奏によって、「ここでギターが要る!」と思ったら弾くし、「要らねえな」と思ったら弾かない。しかも、それがテイクごとに毎回変わるんです。そういう「余白」があればあるほど、しっかり決め込んでいる部分が、より引き立つんですよね。

―  以前はもっと、緻密に作り込んでいく部分が多かった?

津野   ギターに関して言えば、決めてないと弾けなかったフレーズが、決めなくても弾けるようになったらから、あえて「弾かなくてもいいのかな」とも思えるようになったというか。他の楽器の音が増えれば増えるほど、そういうところが増えていきました。特にソロに関しては、決め込まないほうがカッコいいし、ちょっと(ギターのフレーズが)つまずいたくらいの方が良かったりしますしね。

› 赤い公園ニューアルバム『熱唱サマー』8月23日発売!

› 後編に続く

 
 
maisa-tsuno

津野がメインで使用するカスタムショップ製オールローズのストラトキャスター。


津野米咲
高校の軽音楽部の先輩後輩として佐藤千明(Vo)、藤本ひかり(Ba)、歌川菜穂(Dr)の3名によるコピーバンドにサポートギターとして加入。そのまま現在に至る。 2010 年 1 月、赤い公園を結成。 2012年にメジャーデビュー。2013年に1stアルバム『公園デビュー』、2014年に2ndアルバム『猛烈リトミック』、2016年3月に3rdアルバム『純情ランドセル』を発表。ガールズバンドらしからぬ圧倒的な演奏力と存在感から、ブレイクが期待されるバンドとして高い評価を受ける。また、作詞・作曲・プロデュースを務める津野の才能がアーティストやクリエイターから注目を集めており、SMAP「Joy!!」の作詞・作曲、モーニング娘。’16「泡沫サタデーナイト!」等の楽曲提供を行うなど、活動の幅を広げている。2017年には2月、4月、6月と3連続でシングルをリリースした後、約1年半ぶりの最新アルバム『熱唱サマー』を完成させた。8月27日にはZepp DiverCity TOKYOにて単独ライブ「熱唱祭り」が開催される。

› 赤い公園:https://akaiko-en.com/