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My Original Playlist | 亀田誠治【前編】

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アーティストのルーツを紐解きながら、お気に入りのプレイリストと共に音楽のこだわりを語ってもらう「My Original Playlist」。最終回は、日本屈指のプロデューサー&アレンジャーであり、ベーシストとしても東京事変、Bank Bandなどで数々の名演を残している亀田誠治が登場。ミュージシャン、そしていち人間としての“亀田誠治”を形成し、今も胸を焦がし続ける珠玉の曲たちを、素敵なエピソードと共に紹介してもらいました。


ロックの歴史をすべてフェンダーのPrecision Bassが背負っている

 

―  亀田さんが影響を受けた曲、興味津々です。

亀田誠治(以下:亀田)  僕はとにかく全米ビルボードのヒットチャートが大好きなんです。小学校中学年くらいから全米でヒットした曲がとにかく好きで、全米チャートを知りたいがために毎週American Top 40をラジオで聴いてました。なので僕が好きで聴いていた音楽はジャンルとかそういうものではなくて、その時代を彩った曲、その時代を代表する曲であればどんなにポップであろうと、どんなにぶっ壊れていようと良かったんです。それがベーシストとしての今の僕や、ミュージシャンとしての今の僕を作っていると思っています。

―  その1曲目に挙げてくださったのがエルヴィス・プレスリーの「Jailhouse Rock」。

亀田  この曲は50年代のヒット曲で、ロックンロール黎明期を代表する曲です。そしてまさにその頃、正確に言えば51年にレオ・フェンダーがPrecision Bassを開発して世に出しました。プレシジョンの由来である“Precision=正確”な音程を出せるベースが登場したことと、エレキベースが誕生したことがどれだけ当時の音楽に影響を与え、ロックの誕生に貢献したかということです。これは僕と親交のあるクインシー・ジョーンズも言っているのですが、“エレクトリックベースの登場がジャズの可能性を広げた”と。それも“フェンダーのPrecision Bassだ”と。ちなみに今回挙げた「Jailhouse Rock」はウッドベースが使われていて、ウッドベースからエレキベースに切り替わる時代であり、まさにロック誕生の時代なわけです。で、このロックンロール誕生の時に期せずしてフェンダーがPrecision Bassを生み出した。つまり、ロックはまだ還暦くらいの歴史なんですけど、その歴史をすべてこのフェンダーのPrecision Bassが背負っているんです。

―  なるほど。

亀田  何と言ってもウッドベースは持ち運ぶのも大変だったわけですよ。大きくて音域が限られていて、ロックには不向きだったところにプレベが登場したのは音楽の奇跡です。レオ・フェンダーよくやった!と言いたいですね。

―  確かに。

亀田  ご存知かもしれませんが、レオ・フェンダーはギターもベースも楽器がまったく弾けないラジオ修理屋さんだったので、常識に関係なくエレキベースを作れたんだと思います。で、ラジオ修理屋さんが楽器を作り始めること自体が僕はすごくロックなことだと思うんです。レオ・フェンダーがやったことって、それまでになかったものを発明しようとしたイノベーション精神だと思っていて、これは楽器をやってる人たちだと思いつかないことだと思うんです。エレキベースをヴァイオリン工房、ウッドベース工房の人が考え出すのには無理があるんだけれども、レオ・フェンダーはそれを先入観なしにやってしまったんです。



―  そして2曲目に挙げてくださったのがジャクソン5の「 I Want You Back」。

亀田  僕はジェームス・ジェマーソンが大好きで、彼もはじめはウッドベースを弾いていたのですが、Precision Bassを手にしたことによって「I Want You Back」で聴ける変幻自在のベースラインとボールを投げつけたら返ってくるようなグルーヴを手に入れました。この曲を聴くと、ベースがポンポンと弾んでいるんですよ。このグルーヴを生み出したジェマーソンが最初に手にしたエレキベースがPrecision Bassだったわけです。この曲はさっき言ったロック黎明期から始まり、ロック以外のありとあらゆるジャンルにフェンダーベースが広がって行き、音楽の可能性をどんどん広げていった軌跡だと言えます。

―  3曲目はザ・ビートルズですね。

亀田  「Hello, Goodbye」は僕が生まれて初めてコピーした曲なんです。まだベースを持っていない小学校5〜6年生の時だったのですが、ビートルズの「青盤(ザ・ビートルズ1967年〜1970年)」のレコードをかけて「Hello, Goodbye」がかかった時、僕は家に転がっていたガットギターを手に取ったんですけど、その時にポール・マッカートニーのベースラインが飛び込んできて、最初のコピーから僕はベースラインを弾いたんです。

―  メロディーラインではなくて、ベースラインが飛び込んできたんですか!?

亀田  はい。ということで僕をベーシスト人生に導いてくれた1曲です。ポールはフェンダーのベースも弾いてますけど、自身のシグネイチャーサウンドは他のメーカーのベースで確立しています。でも、ポールがそうしたシグネイチャーサウンドを探し当てられたのは、フェンダーが作ったエレクトリックベースの幕開けがあったからだと僕は思っています。

―  異議なしです。

亀田  ポールは“ラジオから流れてくるジェマーソンのベースに刺激を受けた”と語っていて、音楽ってすごいなと思いましたね。シグネイチャーサウンドを持ったウルトラオリジナルなミュージシャン同士が、海を越えて刺激を受け合う。そんなことができるのが音楽の素晴らしいところだと思うんです。そういう音楽の喜びというか奇跡を感じながら、僕はいつも音楽を作り出しています。

―  素敵な話です。

亀田  それにしても、ビートルズはやっぱりすごいです。ビートルズの話になると、“亀ちゃん、ビートルズはロックちゃうやん!”って言われる時もあるんだけど、自分の一番のオリジンは何か?と聞かれたらビートルズと迷わず答えます。そしてこの「Hello, Goodbye」が大好きで、この曲からベースがなくなった瞬間を思い浮かべるだけで悲しくて涙が出てきます。



歌モノのセッションベースの中で、ジョー・オズボーンは最高峰です

 

―  4曲目はザ・ビーチ・ボーイズの「God Only Knows」を挙げていますが、ということはキャロル・ケイですね!

亀田  はい。「God Only Knows」で実際にベースを弾いているかどうかの確証は得ていないのですが(実際にキャロルがプレイしている)、おそらくキャロル・ケイだと思います。あの頃のザ・ビーチ・ボーイズのセッションは、ブライアン・ウィルソンがかなりイッちゃっている時で、自分の理想のためなら何でもやってたんですね。映画「レッキング・クルー」でもその頃のブライアンやレコーディングの様子が映っていますが、キャロル・ケイがベースを弾いていて、彼女の指さばきはクラプトンのギターみたいです。ピックでスラスラと弾いているんですけど、決してテクニカルには聴こえないんです。でもちゃんとベーシストとベースの役割も果たしている。イギリスでビートルズを中心にサイケデリックムーブメントが起こり始めた頃、アメリカではアメリカの美しいメロディーに対して、キャロル・ケイはポール・マッカートニーとは違う対旋律のあり方を示しているんですよね。キャロル・ケイはもともとギタリストでのちにベーシストに転向したんですけど、ジェームス・ジェマーソンも顔負けのグルーヴィなベースを弾くんですよ。一説によるとジェマーソンが弾いているクレジットの曲にも、キャロル・ケイが弾いている曲があると言われているくらいです。

―  映画「レッキング・クルー」は観ましたが、過酷なレコーディングを紅一点のキャロル・ケイさんがこなしているのには驚きました。

亀田  ぶっ飛んでいるブライアンのアイデアを、ニコニコ受け止めて何ひとつ文句も言わずに演奏していますよね。しかも何十テイクもトライしていたり。そういう音楽の情熱が結果的に「Pet Sounds」を生んだんだなって思います。だから「Pet Sounds」はブライアンの情熱であり、ブライアンの魂が生んだのだけれども、それを支えるレッキング・クルーと呼ばれていた腕利きのスタジオミュージシャンたちがブライアンのことを本当に理解していたからこそ完成した作品だと思います。このことは、僕もスタジオで他のアーティストをプロデュースしたりベースを弾く時に心掛けています。

それと、これはキャロル・ケイの発言ではないですけど、映画「レッキング・クルー」の中に収められているドラムのハル・ブレインとブライアン・ウィルソンの会話も大好きなんです。駐車場でブライアンが“僕は今日やりすぎたかもしれない”みたいなことを言うと、ハル・ブレインが“お前はとにかくやりたいことをトライしろ”って返すんです。僕もアーティストに同じことを言っています。アーティストがレコード会社の人やタイアップ先にああしてほしいこうしてほしいと言われて困っていたりすると、“何を困ってるんだ! まずは君のやりたいことを達成しなくちゃダメだよ”という話をするんです。何だか60年代の音楽を作った人たちと自分の気持ちがいつもつながっていて、僕は彼らに操られてるんじゃないのかなって、プロデュースをしたりベースを弾く時に感じることがあります。

―  亀田さんにはキャロル・ケイをはじめとしたレッキング・クルーたちの遺伝子が入っているんだと思います。

亀田  だったら嬉しいですね。あとキャロル・ケイがすごいのは、これが他のミュージシャンとは違うところなのですが、ある程度歳をとってからは音楽教育にすべてを注いでいるんです。学校の講師もしているのですが、あの情熱はすごいです。もう一生分は稼いだはずなので(笑)、悠々自適に暮らすか自分のやりたい音楽だけを作ってもいいのに、未来のベーシストのために自分のやってきたことを伝える作業をするところが、僕がキャロル・ケイをフェイバリットベーシストに絶対に挙げてしまう所以でもあります。

―  そして5曲目はカーペンターズですね。

亀田  はい。カーペンターズと言えばジョー・オズボーンです。僕がジョー・オズボーンに出会ったのはおそらくカーペンターズなんですけど、カーペンターズは僕が小学校2〜3年生くらいの時に日本でブームになっていたのもあって、母親が買ってきたレコードがウチにあったんですね。その中で「Superstar」などの曲にも触れたんですけど、当時は単純に素敵なメロディーだと思っていたくらいでした。でも、ポール・マッカートニーのおかげで小学校5年生でベースに覚醒してから、カーペンターズの曲を思い出したら、ベースがすごいっていうことに気が付きました。

例えばこの「I Won't Last A Day Without You」はピック弾きなのですが、ミュートして歌う感じが最高ですよね。あとは音符の長さも独特です。この楽曲のスコアっておそらく書き譜ではないと思うんですけど、ジョーのベースは完全に楽曲のアレンジの一部になっています。それと、カレン・カーペンターの声をとても優しく支えています。歌モノのセッションベースの中で、ジョー・オズボーンは最高峰です。それとジョーのベースを聴いていると、ここはベースの出番だっていうのがわかるんですよ。彼がベースを弾くフィフス・ディメンションの「Aquarius」もそうですけど、手数が増えてきた時は本当にカッコいいですよ。僕はジョーになりたくて、ジョーが弾く美しいベースのフレーズをテレビを見ている時も練習していたぐらいなんです。



―  亀田さんの解説を聴くと、ベースラインしか聴こえなくなる気がします。

亀田  これを読んでいるみなさんも、カーペンターズの「I Won't Last A Day Without You」をじっくりと聴いてみてください。ジョーは本当に美しい旋律を弾いていて、アレンジに貢献するベースという意味でも、僕がアレンジャー/プロデューサーとして楽曲をプロデュースする時の基準にもなっています。

› 後編に続く

【亀田誠治のMy Original Playlist】


  • 1.Elvis Presley / Jailhouse Rock
  • 2.The Jackson 5 / I Want You Back
  • 3.The Beatles / Hello, Goodbye
  • 4.The Beach Boys / God Only Knows
  • 5.Carpenters / I Won't Last A Day Without You
  • 6.TOTO / 99
  • 7.Cheryl Lynn / Got To Be Real
  • 8.U2 / With or Without You
  • 9.Grover Washington, Jr. / Just the Two of Us
  • 10.Eric Clapton / Change the World
 

亀田誠治
64年、ニューヨーク生まれ。これまでに、椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、Do As Infinity、いきものがかり、JUJU、秦基博、絢香、チャットモンチー、フジファブリック、NICO Touches the Walls、WEAVER、エレファントカシマシ、MIYAVI、東京スカパラダイスオーケストラ、大原櫻子、赤い公園、GLIM SPANKY、片平里菜、大森靖子、flumpool、SCANDAL、山本彩など数多くのアーティストのプロデュース、アレンジを手がける。04年夏から椎名林檎らと東京事変を結成。12年閏日に惜しまれつつも解散。05年よりap bank fesにbank bandのベーシストとして参加。2007年第49回、2015年第57回日本レコード大賞、編曲賞を受賞。2009年、2013年には自身初の主催イベント「亀の恩返し」を日本武道館にて開催。近年にはJ-POPの魅力をその構造とともに解説する音楽教養番組「亀田音楽専門学校」が、NHK Eテレにてシリーズ放送され反響を呼んだ。
› 亀の恩返し | http://kame-on.com/


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