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Why We Play vol.10:KIRINJI 弓木英梨乃 インタビュー【前編】

KIRINJIのギタリストとしてだけではなく、秦基博、土岐麻子、柴咲コウといった多くのアーティストのサポートギタリストとして活躍する弓木英梨乃。そんな彼女に迫ったインタビューの前編では、ギタリストとしての哲学に迫る。

Why We Play
死ぬ直前にピークに達したい
それができる楽器がギターなんだと思うんです
 

―  楽器歴としては2歳半からヴァイオリンをやっていたんですね?

弓木英梨乃(以下:弓木)    はい。10年間くらいは習いましたが、小学校5年の時に野球にハマってしまい、もうヴァイオリンなんかやらない!と言ってスポーツ刈りにして野球に打ち込んでいました(笑)。

―  野球少女からどうやってギター少女へ?

弓木   ギターを弾くようになったのは中学生になってからで、きっかけはザ・ビートルズです。中学1年生の冬にビートルズをたまたま聴いていた時に「Ob-La-Di, Ob-La-Da」に出会い“何ていい曲だ!”と思ってハマり、本当に毎日聴いていたんです。そしたらビートルズ好きの父が“お前は毎日ビートルズを聴いているからビートルズのライヴに行こう”と言って、ビートルズのコピーバンドが毎晩ライヴをやっている大阪のライヴハウスに連れていってくれて。それが生まれて初めてのライヴ体験ですごく衝撃的だったんです。中でもジョージ・ハリスン役のリードギタリストのギターを弾いている姿がすごくカッコ良くて。“私もギターを始めたい”と思って、それから1週間くらいで野球は辞めてすぐにギターを始めて、ギター漬けの毎日になりました。

―  それでギターを即購入ですか?

弓木   私はすごく恵まれた環境で、父がギターとビートルズが大好きで、しかも塗装の仕事をしていたんですけど、工場にスタジオを作ってギターやアンプを飾るのが趣味だったんです。だから、私がギターを始めたいと言ったら父がすごく喜んで、そのスタジオにズラッと並んでいるギターを見せてくれて“どれでも好きなものを持っていけ!”って。だから私、ギターに不自由したことが実はないんです(笑)。

―  確かに恵まれていますね。ギターを初めて弾いた瞬間はどうでしたか?

弓木   ヴァイオリンをやっていたので、めちゃくちゃ苦労したっていう記憶がないんですよ。最初はビートルズの曲をひたすらコピーしていたんです。私の場合はジョージ・ハリスンになりたいと思っていたので、ビートルズの曲のジョージ・ハリスンのパートをとにかく全曲完コピしたいという思いが強すぎて(笑)。ギターの練習というより、ジョージ・ハリスンになる練習だったので楽しかったですね。

―  ジョージ・ハリスン狂からどうやってプレイの幅を広げたのですか?

弓木   それも父の影響なんですけど“ビートルズばっかり聴きすぎだから違うものも聴いたら?”って言われて、いろんなギターヒーローにハマっていったんです。最初はエリック・クラプトンやジェフ・ベック、それからスティーヴィー・レイ・ヴォーンも聴きましたし、スティーヴ・ヴァイみたいな超絶ギタリストも好きになったり。ギター雑誌を見て、いろんなギタリストの名前を覚えて、CDを買ったり借りたりしてひたすら聴いて…それが中学校の3年間でした。しかも中学時代に、父がMTRを買ってくれて“これで何かやってみれば?”って。それでオリジナル曲も作り多重録音を始めました。

―  その頃からプロになる意識だったのですか?

弓木   そういう意識はまったくなかったって最近まで思っていたんです。でも、少し前に中学生の頃の日記を読み返していたら、ギターのことばかり書いてあって、しかも“私は将来みんなから愛されるギタリストになりたい”って(笑)。あと、中学校の卒業文集にも“私はギタリストになりたい”って書いてあったんです。でもすっかり忘れてて、“わっ!私はギタリストになりたかったんだ!”って今になって思い出した感じなんです。

―  中学生でプロになると決意させたほどのギターの魅力って、何だったと思いますか?

弓木   弾いても弾いても上手くならないことかなぁ(笑)。どう頑張っても満足できないことですかね。だから自分でも不思議なんですよ。何でこんなにひとつのものをずっと続けられているのかが。もちろん仕事になったってことも大きいんですけど、やっぱりギターって終わりがないんです。ジェフ・ベックじゃないですけど、私も死ぬ直前にピークに達したいんです。そして、それができる楽器がギターなんだと思うんです。


自分らしさっていうのは今でもわからない
 

―  プロデビューはシンガーソングライターとしてでしたが、それからギタリストになった経緯は?

弓木   シンガーソングライターとして盛大にデビューさせてもらったんですけど、全然売れなかったんです。で、2年くらいでレコード会社も事務所も契約が切れてしまって。でも音楽は好きだし趣味で続ければいいかなと思っていたら、仕事で出会った方から“うちのバンドでサポートギターが必要なんですけど弾いてもらえません?”って言われたんです。サポートでギターを弾く意識はなかったから“えっ!どうしよう?”と思ったんですけど、とにかく何でもやってみようと思って引き受けさせてもらって。そこからちょっとずつ、サポートのお話を小さいものから少し大きなものまでいただくようになって。で、そのひとつひとつを必死に1個ずつギリギリでクリアしながら今に至ってます(笑)。

―  (笑)。簡単に言っていますが相当な努力を?

弓木   とにかく練習しましたね。それってギターが純粋に上手くなりたいっていう気持ちもあるんですけど、とにかく仕事をこなさないといけないっていう思いが強かったです。ライヴにしたって、自分のプレイによってライヴが良くもなるし悪くもなるのですごく責任があるわけですから。“とにかくこのライヴを成功させなきゃ!”とか“このアーティストの方が呼んでくださったんだから期待に応えられるプレイをしなきゃ!”という一心でした。“全然ダメじゃんあの子。最悪だよ”みたいな気持ちに、周りの人をさせないようにという思いで練習していましたね。

―  なるほど。

弓木   だから私はとにかくその人のCDを聴いて、CDみたいに弾くっていうことを最初はずっとやっていたんです。

―  そこから自分らしいプレイができるようになったのは?

弓木   正直、自分らしさっていうのはやっぱり今でもわからないです。それはずっとサポートギターで人の曲を演奏させてもらっているのが大きいと思います。誰かの曲を演奏する時って、その人の好みの音や、その人の音楽に合う音を一番に考えるんです。私はもともとギターヒーローが好きなので、本当はギターヒーローみたいにずっとギターが目立っていたいんですけど、自分の曲ならそれもできますが、サポートは基本的には歌のバックである必要があり、その時々によって求められるものは違うんです。だから、いい意味でも悪い意味でも自分らしさみたいなものがずっとなかった気がするんです。

でも、ギターをバックで弾く仕事をしていると、周りにもっともっと上手いスタジオミュージシャンがいることがわかってくるんです。その中で、何で自分を呼んでくれるんだろう?って考えるようになってきました。それで“自分が呼ばれているのはただテクニックを求められてるだけじゃない”ってことに気づき始めたんです。じゃあ自分は何を求められているのかというと、コーラスもできるし、ヴァイオリンも弾けるといったバリエーションがあること。それと、女性なので見栄えとしてもいいのかって。だから、人から見られた時により楽しく見えるように、鏡の前で練習するようになりましたね。あと、曲をそのままなぞるのではなくて、パッと惹きつけられるようなフレーズを入れたり、ギターソロもそれこそギターヒーローじゃないけど自分が一番目立つように弾いてやろうとか。最近はそんな風に考えています。

› 後編に続く

 

弓木が所有するフェンダーコレクション

Why We Play

Jeff Beck Stratocaster® Olympic White
17歳の誕生日に父親からプレゼントされた1本。最近はメインギターとして活躍している。

American Special Stratocaster® Candy Apple Red
こちらも父親からプレゼントされたモデル。ライヴでの使用頻度も高く、5月に横浜スタジアムにて行われた秦基博のライヴはこの1本でこなした。
› American Special Stratocaster®製品ページ

Why We Play

American Original '60s Jaguar® Surf Green
見た目がお気に入りだという本機。ピックアップはPure Vintage ‘62 Jaguarで、エナメルコーティングされたコイルワイヤーからクロスカバー出力ワイヤー、ファイバーボビン、アルニコ5マグネットに至るまで、当時のスペックを忠実に再現している。
› American Original '60s Jaguar®製品ページ

PROFILE


弓木英梨乃
1990年、大阪生まれ。2歳半からヴァイオリンを始め、音楽のキャリアをスタートさせる。中学1年の時にザ・ビートルズの「Ob-La-Di, Ob-La-Da」を聴いて衝撃を受け、ビートルズを聴きまくり、父親のギターを借りてひたすら楽曲を完全コピーする日々を送る。中学3年生の頃から父親にプレゼントされたMTRでオリジナル楽曲の制作を始め、音楽的才能を開花させてゆく。同時にスティーヴ・ヴァイやスティーヴィー・レイ・ヴォーンにも憧れ、ギターインストも作り始める。2009年、シンガーソングライターとしてメジャーデビュー。年齢とルックスからはギャップさえ感じさせる、テクニカルかつ、時に激しいギタープレイでも注目を浴びる。2012年よりライヴサポートやレコーディング、ギタリストをメインに活動を始める。2013年夏より、6人編成となった新生KIRINJIの正式メンバーとなる。個人としてもシンガーやアイドルへの楽曲提供、アレンジ制作を行うなど、その活動の幅をさらに広げている。
› Website:https://natural-llc.com/kirinji

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2018/06/13 Release

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