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Why We Play vol.15:ichika【前編】

音楽と人、そして楽器。さまざまな表現手段の中から、なぜギターを選んだのか? そんな素朴な疑問にフォーカスを当て、プレイヤーの内面に深く迫る連載企画「Why We Play」。今回は、独特の奏法と楽曲で、世界を魅了する新進気鋭のギタリスト“ichika”。SNSに演奏動画を投稿し始めてわずか2年ほどだが、インスタグラムのフォロワーはすでに8万人を超えた。しかもその多くが海外のフォロワーだ。ギター/ベースの新しい可能性を切り開こうとしているichikaへのインタビュー。前半は、楽器を始めたきっかけや独特の奏法について聞いた。

Why We Play
楽器1本で心揺さぶる曲を作りたい 弾き方から自分で考えるようになり 今のスタイルに辿り着きました
 

―  音楽に目覚めたきっかけは?

ichika 3歳の頃にジャズピアノを弾いていた祖母の影響でピアノに目覚めました。子供なので遊びでピアノを弾いていたんですけど、ビル・エヴァンスとか両親や祖母が流しているジャズを聴いているうちに、どんどんジャズにはまり、まずはジャズピアノからのスタートでした。うちの父は元々スタジオミュージシャンで、家にギターやベースやいろんなジャンルのCDがあったんです。小学校の頃までは父が弾いていた弦楽器に興味はなかったんですけど、中学に上がってある時にふとベースに触れてみたくなって。で、父の部屋に行ってベースを勝手に触ってみたらすごく面白くて。それと父の部屋にあるCDを勝手に漁っていったら、アイアン・メイデンにぶち当たり、ジャズからヘヴィメタルへ移行しました。

―  なかなか強烈なミュージックヒストリーですね(笑)。

ichika (笑)。それからアイアン・メイデンのスティーヴ・ハリスに憧れて、4弦ベースを2フィンガーで弾きまくりました。“俺、これやるぞ”ってそこからエレキベースを中学の3年間ずっと本気で弾いてたんですよ、ベーシストになると思って。でもある時、ギターも触ってみようと思ったんです。それからエレキギターも弾くようになりました。でも、ギターを弾いているうちにひとつ疑問に思うことがありまして。

―  疑問と言いますと?

ichika ピアノソロの楽曲って、すごくポピュラーで、楽器を触っていない方も普通にCDで聴いたりするじゃないですか。でも、ギターやベース1本のソロ曲って全然メジャーなものがないなと思って。何でピアノのソロ曲は聴いてピンと来るのに、ギターやベースのソロ曲って琴線に触れないんだろうと疑問に思ったんです。ないなら、自分でギターやベース1本で、音楽に興味がない人でも心が動かされる曲を作ろうと決めました。それが高校1〜2年の時で、そこからギターとベースを弾く目的が定まりました。楽器1本で心揺さぶる曲を作りたい、演奏できるようになりたい。そうなるとエレキギターを普通に弾いていてもダメで、弾き方から自分で考えるようになり、今のスタイルに辿り着きました。

―  そのichikaさんのプレイスタイル、言葉で表現するのが難しいのですが、まるでピアノを弾くように弦楽器を弾きますよね。そのスタイルをどう生み出したのか具体的に教えていただけますか?

ichika 初めは普通にコードを弾いたり、ソロの速弾きをしたりしてました。でも、弾いていても何かが足りないと思っていたんです。実際それは何なのか? メロディーなのかリズムなのか和音なのか…といろいろな要素を考えてみたところ、ギターは今言った要素を全部バラバラに演奏できるけども、ピアノみたいにまとめて出すことはできないと気づいたんです。じゃあどうすればいいんだろうと。そもそもギターって、左手でコードを押さえてコードチェンジする時、遠く離れたポジションに移動する時、インターバルが大きいので意図しない休符が生まれてしまうんです。それを埋めたいと思った時に、左手を動かす間、右手でタッピングで音を鳴らすと、音が繋がっていくんじゃないかって。そう考えたら、じゃあ左手も指弾きをして音を出そうって考えるようになって。あとはタッピングを入れたり、思いついたものをどんどんやって、ダメな部分は改良して。そういう試行錯誤を重ねて、21歳ぐらいの時にようやく“いいんじゃないかな”っていう形まで来ました。

―  ミュージシャンを目指すことについて周りからの反応はどうでしたか?

ichika 両親は意外なことにノーとは言わず“やりたいならやったらいいよ”ってポンと背中を押してくれました。

―  ichikaさんが世界に名が知れたのはSNSを通してですが、それはやはり意図した作戦ですか?

ichika 曲を作っただけでは意味がなく、その曲を誰かに聴いてもらわなきゃいけないし、できれば生で聴いてほしいし、そこで感動してもらってようやく自分のやってきたことは良かったんだと思えるわけです。でも知名度ゼロの状態で、誰ともつながりがない状態でどうしたらいいか?って考えたら、インターネットで広めていくのが一番いいわけです。自分の曲がちょっと変わっていることは自分でもわかっていたので、聴いてもらえれば必ず耳には引っかかる自信もありました。なので、曲中も一番引きの強い30秒くらいの部分をプロモーション動画としてSNSに投稿して、そこで人目に触れさせてファンを増やし、曲をリリースして、タイアップにどんどんつなげていこうと初めの段階で考えました。ツイッターとインスタグラムに投稿してみたところ、インスタグラムのほうでバズりまして、コメント600件とイイネ6,000件がいきなり来たんです。それが日本じゃなくて海外のほうで、しかもフォロワーもすごく増えて、いろんなお誘いを受けるようになりました。例えばアカデミー主演女優賞を獲ったブリー・ラーソンからも連絡が来たりしたんです。

―  そのインスタが今熱いですよね。ギタリストにとって新しい居場所になっている気がします。

ichika そうですね。今までライヴハウスと家だけが居場所でしたが、その家が大きくなった感じです。僕が投稿を始めた2年ほど前は大きなシーンはなかったのですが、今はロサンゼルスに集結しています。サムブレイクロック(Sam Blakelock)という人がまとめ上げている“ピックアップジャズ”が最大のシーンで、スナーキー・パピーといったグラミー賞を獲っている大御所たちも巻き込んだ大きな動きになっています。僕も彼らに呼ばれて、1月にプライベートで遊びに行き演奏してきます。とにかく動きがめちゃくちゃ早いんですよね。そのコミュニティが1年で急速に大きくなっています。そういう大きな集団がいくつかと小さな集団もあります。いずれにしても、YouTubeでもフェイスブックでもツイッターでもなくインスタグラムに集まっていますね。

―  そういうシーンへの見方は、海外と日本だと温度差がありますよね?

ichika 日本だと、そういう新しいことをしようとすると批判する人が多い気がします。実際に僕も“お前動画に投稿して、調子乗ってんちゃう?”とか言うてきはる方もいるんですよ。でも、動画を上げて終わりじゃなくて、僕らはそこからステージで自分の曲を演奏することを目指しています。それに向けてコツコツやっているだけです。そういう風にインターネットからリアルへと進出していくこの流れは、当分変わらないと思います。

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Why We Play

ノイズレスかつヴィンテージスタイルのサウンドが堪能できる第4世代ノイズレス™ピックアップ、スムーズなフィンガリングを可能とするコンパウンドネックプロファイル、ローフレット部分はモダンC、ネックヒールにかけてDシェイプの形状へと変わるネックなど、高いプレイアビリティを確保しながら伝統的なスタイルとモダンなサウンドを実現。さらに、滑らかでディープなコンター加工、ヘッドストックに刻印されたブラッククロームのロゴ、パーロイド仕様のフレットマーカーなど、細部に至るまでエレガントなスタイルを追求している。
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PROFILE


ichika
突如インターネットに降臨し、クリスタルのようなサウンドと研ぎ澄まされた感性で、日本のみならず海外からも高い注目を集める新たなギターマエストロichika。タイムラインの流れが急峻なInstagramにおいて、彼の投稿する動画の多くが3万再生を超え、世界に衝撃を与え続けている。フレットボードを駆け巡る彼の独創的な奇跡のテクニックによって、想像力を掻き立て感情を揺さぶる瑞々しい楽曲の数々が芽吹いてきた。
› Website:http://ichika-official.com