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Why We Play vol.16:ACIDMAN 大木伸夫【前編】

音楽と人、そして楽器。さまざまな表現手段の中から、なぜギターを選んだのか? そんな素朴な疑問にフォーカスを当て、プレイヤーの内面に深く迫る連載企画「Why We Play」。宇宙や生命の神秘について歌う大木伸夫は、その独特な歌の世界観が注目されることが多いが、3ピースバンドACIDMANを支えるギタリストでもある。前編では、彼のギターキャリアを中心に話を聞いた。

Why We Play
ケースを開けた瞬間、何かが始まる予感というか、 ワクワクしたのをすごく覚えています
 

―  まずは、ギターを初めて手に取ったきっかけから教えてください。

大木伸夫(以下:大木) 兄がギターをやっていたんです。兄はバンドは組んでいなかったと思うんですけど、兄の部屋からずっとギターの音が聴こえてきていて。あとあと、それがザ・ローリング・ストーンズのリフだったということがわかるのですが、当時はそんなことも知らず、ずっと音が鳴っているな、何なんだろうなと思っていてそれがギターでした。しかも、まさにキース・リチャーズモデルのTelecasterを弾いていたんです。それで影響を受けて、中1の時に初めてギターを買いました。

―  ギターの何が大木少年を魅了したのでしょうか?

大木 初めて兄貴の部屋でギターを見たんですけど、ギターという存在は知っていましたが、スイッチなどそれぞれがどういう機能なのか全然わからなくて。でも、それらすべてが面白くて。ただ、手に触れちゃいけない存在だと思っていたんだけど、ある時にすごく安いビギナー用のギターを買ったんです。やっと自分のギターを買って、ギターケースを開けた瞬間に、すごいものを手に入れた!という感覚になったんですよ。弾けもしないのに、何かが始まるような予感というか、ワクワクしたのをすごく覚えていますね。

―  いきなりバンドを組んだんですか?

大木 最初は1人部屋で練習して、そのうちに友達が何人か集まってはポロポロと弾いていましたけど、中学の時はバンドはやっていないですね。ただ、当時はバンドやろうぜ!みたいな空気があったし、僕自身もバンドをやりたくてTHE BLUE HEARTSやJUN SKY WALKER(S)のスコアを買って、いつかバンドをやりたいなと思っていました。中学の時はバンドを組めなかったけど、高校から絶対にバンドをやろうと思って、名称はフォークソング部でしたけどいわゆる軽音楽部に入りましたね。

―  そこで、現在のメンバーである佐藤雅俊さん(Ba)と浦山一悟さん(Dr)と出会うんですよね?

大木 はい、同じ部活だったんです。でも、最初は彼らとは組んでいなくて、入学式のすぐ横に座っていたヤツが音楽好きだったので、“ドラムやらない?”って声を掛けたんです。あと、入学式の時にロン毛で金髪で目立っているヤツにヴォーカルをやってほしくて、後ろを付けていって何とかクラスまで突き止めたんです。そしたら同じ部に仮入部で入ってきたので“ヴォーカルやらない?”って。そんな風にメンバーを集めていましたね。

―  最初はヴォーカリストではなかったんですね?

大木 ええ、僕はギタリストになりたかったんです。

―  当時、憧れのギタリストがいたんですか?

大木 実は憧れのギタリストは昔からいなくて。でも、昔は速弾きギタリストでしたね。高校3年間はずっと速弾きをやっていました。今はまったくできないんですけど(笑)。

―  イングヴェイ・マルムスティーンとか?

大木 イングヴェイもやったし、LOUDNESSの高崎晃さんもやったし、ヌーノ・ベッテンコートやポール・ギルバートも弾いていました。

―  今のACIDMANとは全然違う音楽性ですね。

大木 全然違いますね。ギターの価値観もガラッと変わりました。当時、ギターというのはテクニックだと思っていたし、速く弾くことだと思っていたし、目立つことだと思っていました。今は自分の心を表現するもの、人の心を動かすものだと思っています。今はギターに限らず、すべての楽器においてそういう考えですね。

―  その価値観の転機は?

大木 高校3年間、毎日5〜6時間速弾きの練習をしていて、部活の引退ライヴの時、ライヴハウスでものすごく速く弾いている時にパッと客席を見たら、後輩2〜3人しか歓喜していないんですよ(笑)。俺は何をやっていたのかなってそこで気付いて。自分がやっていることが、音楽だったのか大道芸だったのかちょっとわからなくなってしまったんです。それから聴く音楽の幅を広げて、さまざまな音楽を聴くようになりました。で、バンドのヴォーカルが抜けて自分が歌うことになった時、ギターの立ち位置がガラッと変わったんです。ギターは速弾きするためのものではなく、歌を歌うための仲間なんだなって。あくまで僕らのバンドにおいては、ですけど。

―  ギターと、ヴォーカル&ギターでは全然違うと思うのですが。

大木 まったく違いましたね。ものすごく難しかったです。高校の時の部活動で、後のACIDMANになるバンドと、それ以外にヴォーカルだけを担当するバンドもやっていたんです。ギターだけ、ヴォーカルだけ、その2つを併せてやることがこんなにも難しいことなんだって。でもそれが僕の中ですごく楽しかったんです。

―  ギターまたはヴォーカルのどちらかだけだったとしたら、今のACIDMANの歌の世界は…。

大木 違ったと思います。やはり、自分が弾くギターに歌の感情が乗ってより伝わるし、今の喜びはなかったと思いますね。

―  今、ギターとはどう接していますか?

大木 基本的にギターを触る日々ではあります。毎日、何かしらライヴをやったり、ライヴがない日はスタジオに入って曲を作ったりしているので。曲作りでギターを弾きますけど、練習はあまりやっていないですね。

―  練習が嫌い?

大木 嫌いというより、あまり難しいことをやっているわけではないので、そんなに練習が必要ないんです。昔はすごく好きだったけど、練習ってやりがいはないですよね。興奮してこないというか、誰にでもできることのような気がして。頑張ればできるけど、音楽を作ることは頑張ってもできないから、そっちにいつも打ちのめされています。ギターはきっと誰もが弾ける楽器だと思うけど、それを自分の心とリンクさせて表現することはすごく難しいことだと痛感しています。

―  なるほど。ところで、大木さんは中学の頃にギターに触れてからプロになろうと思うまでに、どれくらい時間がかかりましたか?

大木 ちょっとカッコ良く聞こえちゃうかもしれないんですけど(笑)、自分の部屋でギターケースを開けて、ギターを持った瞬間ですね。“あ、俺これでご飯食べていくんだ”って決めたんです。こんなに素晴らしい武器を手に入れたんだから、これでやっていこうと決めましたね。

―  他に夢はあったんですか?

大木 もっと小さい頃は画を描くことが好きだったので、幼稚園や小学校までは画家やお医者さんになると文集に書いてありました。だけど、ギターを持った瞬間に変わりました。恥ずかしいけど、中学校の卒業文集にも書いてあるので。ギターを弾くって。

―  小さい頃の夢が叶っているんですね! ギターを弾いて人前で歌って、一番良かったと思った瞬間は?

大木 ミュージシャンの皆さんそうだと思うんですけど、ライヴ中に“最高だぜ”って思ったことは本当に一度もないんです。むしろしんどいことのほうが多い。ライヴ中って、何て言うんだろう、手に届かないものに触れようとしている瞬間でもあるので苦しいんです。

―  最高の瞬間には触れずにライヴは終わるんですか?

大木 たぶん永遠に触れられないですね。というより、きっと触れた人っていないですよね。ジミヘンも絶対に触れていないと思います(笑)。

―  触れてはいけないものなんですか?

大木 神様みたいなものじゃないですかね。触れられるものではないのに、人間が勝手に作ってそこを目指している。創造って想像なんだと思います。

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CUSTOM DELUXE TELECASTER

Why We Play

10年以上前から使用している愛機。3プライのミントグリーンピックガード、ネック形状は52年製Telecasterと同様のUシェイプを採用。ピックアップは、フロントがTwisted Tele、リアがHot Nocaster。塗装はボディ、ネック共にニトロセルロース・ラッカーとなっている。

 

PROFILE


ACIDMAN
大木伸夫 (Vo&G)、 佐藤雅俊 (b)、 浦山一悟 (dr)からなる“生命”、“宇宙”をテーマにした壮大な詩世界、様々なジャンルの音楽を取り込み、“静”と”動”を行き来する幅広いサウンドで3ピースの可能性を広げ続けるロックバンド。埼玉県私立西武文理高校時代に出会い、当時四人組で結成。受験休業を経て、大学進学後、下北沢を中心に1997年ライブ活動開始。1999年、ボーカルが脱退。以降、現在のスリーピースで活動。下北沢、渋谷を中心にライブ活動、2枚のインディーズ盤シングル(『赤橙』、『酸化空』)のリリースを経て、2002年、1stアルバム『創』でメジャーデビューを果たす。第17回日本ゴールドディスク大賞「ニュー・アーティスト・オブ・ザ・イヤー」を獲得。その後、2ndアルバム『Loop』、3rdアルバム『equal』、4thアルバム『and world』をリリース、映像と音楽のコラボレートイベント「Cinema」を主催、ROCK IN JAPAN、FUJI ROCK、SUMMER SONIC等各地フェスに多数出演。MUSIC VIDEO「彩~廻る、巡る、その核へ」は2004年 文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞受賞、 2004年オーディエンス・チョイス・アワード受賞、SPACE SHOWER Music Video Awards 05 BEST ROCK VIDEO受賞、Vila Do Condo(ポルトガル映画祭)コンペ部門ノミネート、クレモンフェラン映画祭 招待作品、SICAF Animation Film Festival 優秀賞受賞獲得。2007年には5thアルバム『green chord』ツアーにて、初の日本武道館LIVEを大盛況に収める。2008年には6thアルバム『LIFE』ツアー幕張メッセにて日本最大級の映像を 演出で多くのオーディエンスを魅了した。2009年7thアルバム『A beautiful greed』、2010年8thアルバム『ALMA』を発表。過去3回の日本武道館や台湾、韓国での海外公演を大盛況に収めた。2012年バンド結成から15年目、メジャーデビュー10年目を迎える。2013年、坂本龍一氏をゲストに迎えた楽曲「風追い人」を含む9thアルバム『新世界』を発表し、 同年6月に自身による事務所「FREESTAR」を立ち上げ、新たな一歩を踏み出す。
› Website:http://acidman.jp/