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SHAPE OF SOUNDS Vol.1
吉田正邦(氣志團、PUFFY、チャットモンチーetc.)

吉田正邦

エンジニア、テックなど、現場でアーティストとともに音を作り上げる職人にスポットを当てる新コンテンツ「SHAPE OF SOUNDS」。第1回は、氣志團やチャットモンチー 、PUFFY、ユニコーン(ABEDON)などの現場で活躍するローディー、吉田正邦氏。友人バンドの手伝いから仕事に目覚め、楽器や機材の知識を独学で身につけながら、多くのミュージシャンが絶大な信頼を寄せる存在にまでなった彼の、音作りに対する哲学とはどのようなものだろうか。そしてインタビュー最後には、サウンドを知り尽くした"ローディー目線"で、フェンダーの新しいエフェクターを触ってもらった。


何より大切にしているのは、現場の空気を読むこと

 

―  吉田さんの普段の業務内容は?

吉田正邦(以下:吉田)    平たく言うとアーティストの楽器運搬と管理です。楽器を倉庫から出してクルマに積んで、壊れないように運搬し、会場に着いたら降ろす。パッキングを解きセッティングして、音が出せる状態までにする。本番中はギターの持ち替え、エフェクティング、シールドが引っかからないように回す。トラブルがあればシューティングする。ライヴが終わったら、その逆のプロセスで搬出します。

―  どのような経緯で今の仕事に就いたのですか?

吉田   学生の頃、友人がやっているメロコアバンドにハマり、毎週のようにライヴハウスに通っていたんです。気づいたらそのバンドの手伝いをするようになっていて、ある時ライヴハウスのブッキングマネージャーから、"今お前がやっているのはローディーという仕事だ"と教えてもらって。"そうか、そんな仕事があるのか!"と。それからというもの、求人情報誌をマメにチェックしていたんですけど、ある時、ソニー・ミュージックアーティスツ(SMA)が「カンパニー・ローディー・チーム」という、所属アーティストをサポートする楽器チームの求人広告を出していて。それで面接を受けに行ったら、なぜか受かってしまい、それがこの世界に飛び込んだキッカケです。

―  自分が前に出て演奏するより、裏方に回って支えるほうが好きですか?

吉田   そのほうが向いていると思いますね。あまり矢面に立つのが苦手で。時々、バンドのツアー中に誕生日が重なると、サプライズでケーキとか用意されてステージ上で祝ってもらったりするんですけど、ああいうところで挨拶するのとかも大の苦手なんですよね(笑)。

―  ローディーになって最初の仕事は?

吉田   橘いずみさんのリハとツアーのローディーです。僕の先輩がメインでローディーをやっていて、僕はサポートという形で入りました。最初はもう何が何だかさっぱりわかりませんでしたね。僕がアマチュアの頃に手伝っていたのはメロコアバンドだったし、アンプに直で差していた。エフェクトボードなんてものは知らないわけですよ。"この床に置かれた四角い荷物は一体何なんだろう?"というところからスタートですからね(笑)。よくSMAに入れたなと。

―  (笑)。なぜだと思います?

吉田   当時、うちの課長はキャラクターと根性の有る無しで人を採用していくタイプで。仕事ができる、できない二の次だったんですよね。実は、そのときの応募者も書類だけで300通を超えていて。絶対受かるはずがないと思ったんだけど、なぜかここにいられるのは、キャラと根性だったんでしょうね(笑)。

―  そこから、どうやって知識を蓄えていったのですか?

吉田   まずは先輩に聞き倒しました。それをノートにずっと書きとめていましたね。今もそのノートは残ってます。あと、これは今となっては時効だと思うのですが(笑)、深夜に機材車を使って内緒で楽器倉庫へ行き、そこにあるドラムを一から組んではバラすというのを何度も何度も繰り返しました。あとは、倉庫にあるギターアンプを鳴らしてみたり。で、朝方帰って昼過ぎまで寝るっていう(笑)。

―  ものすごく勉強熱心ですよね。

吉田   いや。何もできない自分にムカつくし、悔しかったんですよ、氣志團が初めてのホールツアーをやる時があって、そこでアシスタントをやった時に全然動けず、後から先輩にけちょんけちょんに怒られたんです。今考えると恥ずかしいですけどね。

―  自分なりの仕事スタイルが確立したのはいつ頃?

吉田   5年くらいは暗中模索の日々だった気がします。フジファブリック、氣志團、PUFFYを経験して、その中で少しずつ自信がついてきたというか。2009年からはSMAと業務委託という形になり、それ以外のアーティストも手がけるようになりました。

―  現場によって雰囲気や空気感など違いはありますか?

吉田   例えば氣志團は、サウンドに対してももちろんこだわりのある人たちなのですが、ライヴでは"いかにお客さんに楽しんでもらうか?"ということを、メンバー全員がとても真剣に考えていますね。照明のタイミングなど、秒単位でチェックしていますし。僕らとしても、新たな楽器を導入する際には"この色だとセットに合わないんじゃないか?"とか、そういう細部まで気にするようにしています。エンターテイメント性という意味では、氣志團は日本最高峰だと僕は思っていますね。

―  チャットモンチーはどんな印象でしたか?

吉田   今まさに、日本武道館に向けてのリハーサル真っ最中なんですが、とにかく変幻自在の2人というか。あっこちゃん(福岡晃子)もえっちゃん(橋本絵莉子)も音楽的才能があり過ぎて、ステージでやれることがものすごく多いんです。バンドアンサンブルはもちろん、アコースティックセットもやるし、PCを使って打ち込みと同期させたかと思えば、ループマシンで音を積み重ねていくこともある。そんな2人だから、新曲を作っていて"この音が欲しい"となれば、自分たちの持ち場とかまったく気にせずその音が出せる楽器に向かい、その場で練習をし始めたり(笑)。本当に自由に音楽を楽しんでいるというか、"音楽"そのものっていう感じがしますね。僕はそれを、できるだけストレスなくサポートしていくのが仕事です。

―  ローディーをやっていて良かったと思うのはどんな瞬間ですか?

吉田   すべてが滞りなく終わった瞬間ですかね。ローディーって、実は評価されにくい仕事というか。ライヴ中、僕らが忙しく立ち回るということは、演出上必要な時以外は何かトラブルが発生しているわけですよね。"何もなく終わる"のがいいわけですから、そうすると目立たないんですよ(笑)。"あのケーブルさばき、良かったね"とは誰も言ってくれないし(笑)。

―  確かにそうですね。逆に失敗談などはありますか?

吉田   今でも思い出すと、ゾッとするような失敗はたくさんありますよ(笑)。まだ新人の頃だったんですけど、ギターのストラップを留めるピンのチェックをよく忘れてたんです。で、あるとき氣志團が出演した野外のフェスで、僕が担当していたギターのストラップが外れて、そのまま床にギターがズドーンと落ちたことがあって。その時はもう目の前が真っ暗になりました。それがあってからは、ギターをケースから出した時には必ずそこをチェックしていますし、ギターを持ち替えるたびに確認していますね。もう、クセになってるというか(笑)。

―  お話を聞くと、ローディーになるには楽器や機材に対する知識は当然必要ですし、メンテナンスもこまめにしなければらない。ライヴがどういう段取りで進むかを完璧に把握しておく必要もあり、機材の運搬など体力も必要なわけですよね。とても大変で、大切な仕事だというのがよくわかりました。

吉田   でも、何より大切にしているのは、現場の空気を読むことです。僕らはミュージシャンをサポートしているわけで、彼らが本番中に何かソワソワしているなと思った時、すぐに動けるかどうかだと思うんですよね。それによって、ミュージシャンに信頼されるかどうかも決まると僕は思っています。

―  さて、今回フェンダーは歪み系や空間系などの定番を網羅したエフェクトペダル6機種を発売しました。さまざまな現場を経験するローディー目線で、試奏してみてどんな印象を持ちましたか?

吉田   まず、ツマミにLEDが付いているのは嬉しいですね。特に氣志團のライヴは演出上、曲間で手元が見えなくなるくらい真っ暗になることがあるんですけど、その時にエフェクターの設定をサッと変えたい場合にとても便利だと思います。あと、筐体の裏側がフラットなのが最高(笑)。僕らいつもマジックテープを使ってエフェクターボードに固定する事が多いので、テープが貼りやすいのはとても助かりますね。世の中のすべてのエフェクターが、こうなればいいのに(笑)。

―  特に気に入ったモデルは?

吉田   バッファーのLEVEL SET BUFFERが特に気に入りました。フットペダルを踏み変えた時の、音の違いもすごくナチュラルですし。例えば、直列ではなく並列で繋げてブースト的な役割をさせるのも面白そう。あまり歪まずに音量が上がるのも、使い勝手が良くて重宝しそうです。それと、リバーブのMARINE LAYER REVERBも音がすごくいい。さすが、スプリングリバーブのフェンダーです。例えばエレクトリックシタールに、ロングリバーブとかかけたら最高だと思いますね。フジファブリックの山内総一郎くんが、最近ライヴでエレキシタールをよく使っているので、僕からこれをプレゼンしておきます(笑)。


Effects Pedals