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SHAPE OF SOUNDS Vol.2
小谷高志(ACIDMAN、Base Ball Bear、BONNIE PINK、etc.)

小谷高志

エンジニア、テックなど、現場でアーティストとともに音を作り上げる職人にスポットを当てるコンテンツ「SHAPE OF SOUNDS」。第2回目は、ACIDMANやBase Ball Bearなどを手がけるバックラインテクニシャン/サウンドコーディネーターの小谷氏。音楽一家の中で育ち、家族の演奏を録音したことがキッカケで機材にハマったという彼は、ミュージシャンと理想のサウンドを“共有”しながら一緒に作り上げていくことにこだわっているという。


一緒に正解を導き出すようなアシストができたらいいなと思っている

 

―  小谷さんのお仕事の内容を教えてください。

小谷高志(以下:小谷)   肩書きは、バックラインテクニシャン、サウンドコーディネーターです。内容は、基本的にはバンドの音作りのお手伝い。ミュージシャン本人たちとイメージを共有しながら、目的の音へ近づけていきます。レコーディングでは、曲ごとに楽器やアンプ、エフェクター、ドラムセットを替えるなど選択肢もたくさんあるのですが、ライヴの場合は持ち込む楽器もアンプもエフェクターを積むボードの大きさや、ドラムセットにも制限がありますから、その中で音を構築していかなければなりません。あと、楽器や機材のメンテナンスや、調整、場合によっては修理などもします。それと、ヴォーカル&ギターの場合はエフェクターの踏み替えの手伝いをすることもありますね。

―  求められることが、バンドごとに違いそうですね。

小谷   違いますね。彼らが一番気持ち良い環境を作り、本番に100パーセント集中して挑むためのサポートをするのが僕らの役割です。

―  小さい頃から音楽は好きだったのですか?

小谷   母親がピアノや琴、三味線などを趣味でやっていたんです。親父も尺八を吹いていましたね。別にプロというわけでなく一般家庭でしたが、姉もそういう環境の中でピアノや琴を習い始めたんです。家族の中で、僕だけは何も楽器を習っていなかったんだけど、その代わり“録音係”をさせられていた。当時ですから、カセットテープレコーダーにマイク1本という装備で発表会を録りに行くんですね。もちろん、素人ですからマイク1本ではなかなかいい音にならない。親からもダメ出しがある。「音が回り過ぎて、何演奏しているかわからないよ?」とか。まだ小学生なのに(笑)。でも、それが悔しくて、マイクの位置や距離を試行錯誤して、たまに良い音で録れると喜んでくれるんですよね。そこから音響に興味を持つようになったのかもしれない。

―  なるほど。

小谷   あとは和楽器と洋楽器の“生の音”を、小さい頃から刷り込まれたのも大きいですね。そういう環境のおかげで、音色や音響に対してはものすごく細かくなりました。まあ、その環境が嫌で後にパンクに走っちゃったというのもあるんですけど(笑)。僕が好きなものはクルマ、音楽、サッカー、洋服だったんです。バンドもやってました。クルマ屋でも洋服屋でも働いたことがあったんですけど、「ちょっと違うな」と。それで、“テック”という仕事があることを知り、最初はローディー/機材レンタル会社に入った。そこでローディーという仕事に携わるようになりました。

―  最初に担当したのは?

小谷   しばらくは先輩について、アシスタントのような事をしていたのですが、最初に1人で担当したのはThe Modsです。上司から、「あそこは雰囲気も重視だから、お前が行け」と(笑)。そこでフリーのテックの方と、一緒に仕事をして。当時の僕は駆け出しでしたから、「この仕事をフリーでやっているなんてすげぇな」と思ってたんですが、そのうちに感化されてきて(笑)。社会人になって5年くらい経った時に、思い切ってフリーランスになってみたんです。その頃になると、いろいろな現場で「お前がフリーだったら、この仕事も頼めるのになあ」って言われることが多くなってきてもいたんですよね。で、ちょっと自分に勝負を賭けてみようと。

―  不安はなかったですか?

小谷   不思議となかったんですよね。「まあ、何とかなるだろう」と。それで今に至ります。

―  大変な時もありました?

小谷   ありましたね。スケジュールが急に飛んだり変更したりすることもあります。ずっと手がけてきた仕事でも、バンドが解散したり制作チームが替わってライヴスタッフが入れ替わるということもある。まあ、音楽業界ではよくあることかと思うのですが。

―  仕事にやりがいを感じるのはどんな時ですか?

小谷   最近は、これからメジャーデビューするような新人バンドを手がけることもあるんですけど、そういう子たちと一緒にベストなサウンドを作っている時ですね。先日もtonetoneというバンドのスタッフから、「機材周りをちょっと見てもらえないか」と頼まれて。それで、西永福のJAMでライヴ形式のリハに行ったんです。まずは本人たちに、音作りを自由にやらせて演奏して。で、彼らがどんなサウンドを目指しているのかを具体的に聴いた後、僕がそこにある機材だけで調整したら、一聴してわかるくらい目指してる方向の音になったとみんな驚いてくれたんです。そういう時はやはり嬉しいですね。

―  現在、メインで手がけているアーティストは?

小谷   ACIDMANは長くやらせてもらっています。あと、Base Ball Bearもレコーディングから入って今はライヴも手伝わせてもらっていますね。ACIDMANは、3年くらい前に転がしのモニターからイヤモニに替えたんですよ。やはりスピーカーとイヤモニでは、中音の作り方も全然違ってきますし、そこはすごく勉強になりましたね。試行錯誤も実験的なこともたくさんやりました。新しいモニター環境の中で、いかに迫力のある出音を出すかなども工夫が必要でした。

―  Base Ball Bearの音作りに関しては?

小谷   今回、3ピースで初のツアーでしたので色々勉強させてもらいました。今回に関しては完全に3ピースで、同期も入れずにライブをやるということになって。そうすると、小出(祐介)くんのギターの役割も変わってくる。役割が変われば機材も変わってくるんですね。例えば、バッキングだけでなくソロも弾かなければならないですし。そこで“エフェクターを増やす”という選択肢もあると思うのですが、ギター&ヴォーカルの場合は負担が大きくなってしまうと思うんですよ。となると、ギター本体も含め音色をいかにコントロールしやすくするか、そこを追求していきました。色々試行錯誤した結果、ライヴでいいレスポンスが返ってくると、「よかったなあ」という安堵感とともにテンションも上がりますね。

―  小谷さんが仕事の中で特にこだわっていること、気をつけていることは?

小谷   ライヴもレコーディングもですが、自分の正解や理想を相手に押し付けないように気をつけています。「ああ、そこはもっとこうしたほうがいいんだけどな」と思っても、たとえそれが近道だったとしてもすぐには言わない。本人たちと考えたり、切磋琢磨して一緒に正解を導き出すような、そんなアシストができたらいいなと思っていますね。

―  さて、今回はフェンダーのエフェクトペダル6機種も試奏してもらいました。バックラインテクニシャン/サウンドコーディネーターとしての印象は?

小谷   おそらく他のテックやローディーも言うと思うんですけど、筐体の裏側がフラットなのは最高ですね(笑)。エフェクターボードにマジックテープで固定したい時にとても重宝する。ここがフラットじゃないと、マジックテープを剥がすときにシリアルナンバーまで剥がれてしまって、海外への持ち出しが面倒になることよくあるんです。それと、インプットとアウトプットの位置が微妙にずれていて、エフェクターをいくつかつなげた時にぐっと寄せられるのは便利。さすがフェンダー、この価格帯にしては、音も仕様も申し分ない造りだなと思いました。

―  特に気に入ったモデルは?

小谷   コンプレッサーペダルのTHE BENDS COMPRESSORです。例えばベースにコンプをかけると、コンプ感が強くなり過ぎてしまいがちなのですが、これは原音の芯をちゃんと残したままコンプレッションを加えていける。すごくナチュラルで気持ちいいかかり方をしてくれますね。コンプのかかり具合がインジケーターでわかるのも便利です。それから、オーバードライブのSANTA ANA OVERDRIVEはカラッとしたカリフォルニアっぽい歪みが、もろ“フェンダーアンプの音”という感じ。この手の音が好きな人はたまらないと思います。今回はフェンダーのアンプで試奏させてもらいましたけど、他のアンプと組み合わせた時にどんな音がするのか聴いてみたい。いろんなアンプで試してみたいですね。

Effects Pedals