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SHAPE OF SOUNDS Vol.3
松村忠司

松村忠司

エンジニア、テックなど、現場でアーティストとともに音を作り上げる職人にスポットを当てる新コンテンツ「SHAPE OF SOUNDS」。第3回は、赤い公園や椎名林檎、ROVO、クラムボン、LITTLE TEMPO、UA、湯川潮音、bonobosなど、ジャンルを問わず数多くのアーティストを担当するローディーの松村氏に話を伺った。10代の頃から音楽業界に飛び込み、30年にも渡りアーティストを支え続けてきた彼の哲学とは。インタビュー最後には、サウンドを知り尽くした"ローディー目線"で、フェンダーの新しいエフェクターを触ってもらった。


―  まずは松村さんがローディーになった経緯を教えてください。

松村忠司(以下:松村)   最初はバンドボウヤ(アシスタント)をやっていたんですよ。中森明菜さんのバンマスだった人が、放送作家の姉と知り合いで。高校を中退した時に“フラフラしてるくらいなら働きなさい”って言われて働き始めました。明菜さんが「難破船」を歌っていた頃だから、80年代の終わりでかすね。その当時のバンドが、ギター2人にベース、鍵盤3人、ドラム、パーカッション、コーラス3人とか大編成だったんですけど、それを僕と先輩ローディーの2人でやってたんです。

―  当時、楽器の知識などお持ちでしたか?

松村   お恥ずかしい話、ギターとベースの違いすらわからない状態でした(笑)。その後、明菜さんがしばらく芸能活動を休止するんですけど、それで仕事がなくなったタイミングでレベッカを紹介され、ドラマーの小田原豊さんについたんです。そこから彼の他のバンドのローディーなどもやり始め、ギターやベースについて本格的に学びました。佐橋佳幸さんにつく機会もあったし、サザンオールスターズや小林武史さんの現場にも行きました。伊藤広規さんや青山純さんともご一緒させていただいたこともあって、その時期に吸収したことは今も役に立っています。

―  バンド活動を本格的にやっていた時期もあったそうですね。

松村   小田原さんのところを辞めて、3年間だけバンド活動をしていました。 僕はドラマーだったのですが、その後バンドは解散。それで再び裏方に戻り、以降はフリーランスのローディーとして働いています。名越由貴夫さんと知り合ったのも、ローディーに戻ったばかりの頃じゃなかったかな。

―  楽器の知識もほとんどないまま10代からフリーランスで働き始めた松村さんが、なぜそんなに名だたるミュージシャンと仕事ができたのでしょう。

松村   うーん、“しゃべり”と運じゃないですかね(笑)。まあ、10代で業界に入ったからかわいがられたんだと思います。それでいろんなところに紹介してもらって、“じゃあ、こっちも手伝ってよ”みたいな感じで仕事が増えて。あとはもう、ひたすら真面目にやっていただけです。20代の後半になってからだと思うんですが、自分からミュージシャンにいろいろ提案するようになったのは。たとえば、良さそうな弦を見つけたら勧めてみるとか。あとは、担当しているミュージシャンが使っている楽器やエフェクターのスペアを揃えておいて、時間があるときに解体して構造を調べてみるとか。

―  わざわざ楽器のスペアを購入するんですか!?

松村   ええ。本人が使っている楽器やエフェクターをバラすわけにはいかないですからね(笑)。で、30代になった頃から楽器メーカーさんともやり取りするようになって。現場の声を吸収しつつ、自分でも楽器についていろいろ調べた上で改良点を提案していました。

―  そんな楽器メーカーの中で、フェンダーに対してはどんな印象をお持ちですか?

松村   やっぱり、“基本中の基本”という感じがしますね。StratocasterやTelecaster、ベースならJazz BassとPrecision Bassが、他のメーカーに与えた影響はものすごく大きいと思います。ミュージシャンたちへの影響も計り知れない。“サーストン・ムーアが使っているからJazzmasterを使いたい”とか、“ジェフ・ベックが好きだからStratocasterを使う”みたいなのってあると思うんですよ。そういう意味でも、歴史の重さをひしひしと感じさせるメーカーだと思います。

―  普段、気をつけていることや、心がけていることはありますか?

松村   精神状態を健全に保つこと(笑)。精神状態が落ち着いていないと、聴こえてこない音とか絶対にありますからね。自分のコンディションを最良の状態にしておくことも、プロ意識なんだろうなと思います。

―  なるほど。

松村   それと、たしか明菜さんのボーヤをやっていた頃だったと思うんですけど、“ツアースタッフはサーカス団のようなもの”とよく言われてました。スタッフ全員でコンセンサスが取れていて、楽しい気持ちで仕事をしていれば、それは確実に外にも滲み出るものだと教わりましたね。ある意味、家族経営みたいなものだから、本番中以外のところでも雰囲気をちゃんといいものにしておけば、本番のステージに絶対いい影響を与えるのだと思います。

―  ローディーという仕事で、もっとも大切にしていることは?

松村   自分の仕事が、あまりミュージシャンに影響を与えないようにしたいと思っています。あくまでも本人たちの内側からふつふつと湧いてくるものに対して、それをどう外に出すか?っていうことについてはこだわりますけど、僕の発言がミュージシャンの作品そのものに影響を与えるようなことがないようにしたいですね。

―  さて今回、フェンダーが歪み系や空間系などの定番を網羅したエフェクターを発売しました。さまざまな現場を経験するローディー目線で、試奏してみてどんな印象を持ちましたか?

松村   ディストーションの「PUGILIST DISTORTION」が気に入りましたね。2系統のディストーションが搭載されていて、混ぜて使えるのがポイントだなと。新製品(近日発売予定)の中では、特にブースターの「ENGAGER BOOST」とファズの「THE PELT FUZZ」がいいですね。まずブースターですが、スイッチを踏んだときにすべての帯域がヘコまず均等にちゃんとブーストされる。しかも、メチャメチャ綺麗にブーストされるんですよ。これが少しでも歪んだり、帯域バランスが変化してしまうと、ちょい歪みやEQの使い心地になります。このブースターはとても使い心地の良いクリーンブースターだと思います。

ファズは、ミッドを調整するツマミが付いているのが嬉しいですね。オールドのチューブアンプを意識しているとのことですが、本当にいい音だなと思いました。最初は“大人しい音かな?”と思ったんですが、使えば使うほど気に入りそうです(笑)。操作も簡単ですしね。ファズの面白さを伝授してくれそうなエフェクター。先のブースターと組み合わせて使うと最高だと思うので、気になる方はぜひ試してみてほしいです。

Effects Pedals