#FenderNews / SHAPE OF SOUNDS Vol.4
SHAPE OF SOUNDS Vol.4
本間昭光
エンジニア、テックなど、現場でアーティストとともに音を作り上げる職人にスポットを当てる「SHAPE OF SOUNDS」。今回は、ポルノグラフィティやいきものがかりなどのプロデュースで知られる本間昭光が登場。セッションキーボーディストとしても、ジャンル問わずさまざまな現場で活躍する彼が並々ならぬ“フェンダーギター愛”を持っているのはなぜなのか。その秘密に迫った。そしてインタビュー最後には、サウンドを知り尽くした"プロデューサー目線"で、フェンダーの新しいエフェクターを触ってもらった。
良い楽器が良い演奏を生み、ひいては良い作品になる ということを改めて思い知らされたんです
― キーボーディストである本間さんが、ギターと出会ったのはどんなきっかけだったんですか?
本間昭光(以下:本間) 最初にギターと出会ったのは、中学生の時でした。当時の担任がブラッキー(エリック・クラプトンが愛用したフェンダーのStratocasterに名付けられた愛称)のコピーモデルを持っていたんですよ。自分でギターのヘッドにタバコの焦げ目をつけるくらいクラプトン狂で(笑)。僕はその担任に影響され、ブラッキーを借りて文化祭でバンド演奏なんかをしていたんです。ただ、その頃から自分は、ギターよりも鍵盤のほうが向いているなとは思っていましたね。
― それでも、エレキギターの魅力にどんどんハマっていくわけですね?
本間 そうなんです。親戚のお姉さんからレッド・ツェッペリンを教えてもらって。彼らって、レコーディングではさまざまなギターを使うのですが、初期のレコーディングでは、ほぼテレキャスを使っているらしいとの情報を仕入れまして。“Telecasterって何?”と思って雑誌など片っ端から調べたんですね。当時はインターネットなんてなかったから。で、ちょうどデビューしたばかりの桑田佳祐さんが弾いていたのがテレキャスだった。テレビを観て“これだ!”って思いましたね。
― 当時はギターのどこに魅力を感じていました?
本間 完全にデザインです(笑)。特にフェンダーは、テレキャスもストラトもアシンメトリーな造形なのに絶妙なバランスで存在しているじゃないですか。ちょっと美術品を鑑賞するような思いもあったんでしょうね。
― 20代前半で上京してからは、杉本理恵の楽曲アレンジや工藤静香、Winkなど主にアイドルのサポートキーボーディストとして本格的に活動するようになってからは、ギターに対する思いや距離感も変わりました?
本間 相変わらずギターは好きなので、スタジオでもしょっちゅう観察していました。当時は80年代後半でしたが、やはり圧倒的にストラトの使用率が高い。ストラトでなくても、一緒に仕事をするスタジオミュージシャンたちは、ほとんどみんなフェンダーを使っていました。とにかくファーストチョイスはフェンダー。“何でフェンダーなの?”と聞くと、とにかく弾きやすいし、チューニングも安定していると。しかも、どのジャンルでも数々の名演奏がフェンダーのギターから生まれているんですよね。それこそカントリーからヘヴィメタルまで。弾き手を選ばない。“良い楽器が良い演奏を生み、ひいては良い作品になる”ということを、改めて思い知らされたんです。
― セッションミュージシャン時代、現場で培った知識がプロデューサーになったときに役に立ったと思うことはありますか?
本間 ありますね。最初の頃はバンドのプロデュースというよりは、セッションミュージシャン相手に仕事をしていたから、彼らが最初に出してくる音がとにかく素晴らしいんですよ。で、そこからの微調整でさらに良くしていくのがプロデュースワークで、具体的にどんなリクエストを彼らに伝えることができるかというポイントでプロデュースの力量が問われるわけです。ピックアップのセレクトはどうすべきか、ペダルエフェクターは何を繋げるか、アンプとマイクの距離はどのくらいにするか、ちゃんと指示できないとダメなわけですよ。それはもう、自分がセッションミュージシャンだった時代に、ギターレコーディングのノウハウを学んだ経験が活かされました。
― ファーストチョイスはストラトかテレキャスが多かったとおっしゃいましたが、プロデュースワークを始めた90年代中期以降はどうでした?
本間 Jazzmasterがグッと増えました。当時の渋谷系やグランジ、オルタナ…ニルヴァーナの影響は相当大きかったと思いますね。僕はジャズマスが大好きなのですが、倍音の構成として“暴れる音”が出るし、それを求めるギタリストもあの頃から増えていきましたね。
― 時代によって求められる音が違っても、やっぱりファーストチョイスがフェンダーであることは変わらなかったわけですね。
本間 その通りです。時代が移り変わっても、僕自身のギターに関する知識とか、愛情だけはずっと変わらなかった。なので、90年代後半くらいから自分でもギターを集めるようになって。まずアコギを買って、次に何を買おうかと思った時にJazzmasterを買ったんです。色にひと目惚れして(笑)。で、それをスタジオに持って行って“これ弾いてみてよ”ってギタリストに頼むようになった。僕がギターをちゃんと弾けない代わりに、プロに弾いてもらって楽器を“育てよう”と考えたんです(笑)。いろんな人に弾いてもらって“ここを調整したほうがいい”とかアドバイスを受けながら、実際にどんどん楽器が育っていきました。そうしているうちに、縁あってユーリ・シスコフというマスタービルダーのストラトを手に入れることができたんです。
― マスタービルダーのギターを使った感想は?
本間 ローズ指板なのですが、倍音の具合がメイプルと比べて微妙に違う。とにかくよく鳴りますね。なぜかミックスでレベルを下げても見える。いろいろ重ねていっても存在感が落ちないんです。僕のプロデュースワークは歌モノが多いのですが、キーボードとの馴染みがローズウッドは相性が良くて、そういう意味でも重宝しています。それって“細かすぎるこだわり”と思う人もいるかも知れませんが、とても大事なんですよ。スポーツ選手が使うギアもそうですよね。選手に合わせてディティールまでこだわりまくり、それが結果にちゃんと反映される。音楽も一緒だと思うんです。なので 、Custom Shopを立ち上げたフェンダーって流石だなと思います。
― マスタービルドモデルは、プロデュースワークにどの様な影響がありましたか?
本間 よりレベルの高いリファレンスができましたよね。自分の中で“完成されたギターサウンドイメージ”というのがちゃんとあると、例えば若いバンドのプロデュースをする時でもアドバイスがしやすい。高い楽器がまだ買えない彼らに、どうやって“いい音”を鳴らしてあげられるか、何が足りないのか、どこからバージョンアップしていけばいいのかをサジェストしてあげられやすくなりましたね。
― マスタービルドモデルにまつわる具体的なエピソードはありますか?
本間 例えば、ROCK'A'TRENCHの6枚目のシングル「My SunShine」(2009年)をレコーディングした時、ストラトのマスタービルドモデルを持って行ったんです。“これで弾いてみて?”って。そしたら彼らも弾いた瞬間に分かるんですよね。“なんじゃこりゃ!”ってなるし(笑)、実際にいいフレーズがどんどん出てくる。もともと素晴らしいプレイヤーだから、いい楽器を持てばちゃんとそれが自分に返ってくるんです。そのことを、本人が体で知れたのはとてもいい経験やモチベーションになったと思っています。
― さて、ここでフェンダーが開発したエフェクターを視聴していただきたいと思います。今回は、夏のNAMM Showで出展した「The Pelt Fuzz 」「Full Moon Distortion」「Engager Boost」の3機種を用意しました。
本間 僕はファズが大好きで、ギターだけじゃなくファズも買い集めているんですよ。ビッグマフとか4種類持っています(笑)。この「The Pelt Fuzz」は帯域をコントロールできるのがいいですね。400Hzあたりの扱いって、実は一番難しくて。というのも、この中高域ってヴォーカルの美味しい部分とぶつかるんです。なので、800Hzをコントロールしつつ400Hz以下の低音を下げるなどすると、ギターとヴォーカルを上手くすみ分けられると思いますね。「Engager Boost」と組み合わせてぜひ使いたいです。
― 「Full Moon Distortion」に関してはいかがでしょう。前回の「Pugilist Distortion」はフェンダーっぽいヴィンテージな歪みでしたが、今回はそれよりもモダンな歪みになっています。中域・高域が持ち上がり、ローが削られるバイティーな歪みも作れるんです。
本間 これはいいですね。“テクスチャー”という機能が好き。例えばライヴ会場によっては、なぜかギターの歪みが前に出てくれない時があるんです。歪み特有の位相の問題なのか、会場によって原因が違うので戸惑う事も多いのですが、それを解消したいときにこのあたりのスイッチは威力を発揮してくれそうです。
― レコーディング現場ではどうですか?
本間 例えば、ミックスの時にインサーションとして歪みのエフェクターをコンソールに繋げたりするんですけど、そういうアナログな“汚し”が曲の中で絶妙な隠し味になることがあって。サンズアンプなどを使うことが多かったのですが、そこにこの「Full Moon Distortion」をつなげても面白そうですね。今度、ゴリゴリのロックバンドのレコーディングがあるので、そこに持って行ってみようかな(笑)。