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Why We Play vol.5:D.W.ニコルズ 鈴木健太 インタビュー【後編】

音楽と人、そして楽器。さまざまな表現手段の中から、なぜギターを選んだのか?そんな素朴な疑問にフォーカスを当て、ギタリストの内面に深く迫る連載企画「Why We Play」。鈴木健太さんを迎えたインタビューの後編をお届けします。

後編では、ギタリストの鈴木健太がギターとともに愛用し、最近は教則本まで出しているというウクレレの魅力を紹介する。ジョージ・ハリスンをも魅了した、あの小さな楽器にどんなポテンシャルが潜んでいるのだろうか。

Why We Play
ウクレレは手を伸ばせばすぐ届く位置に常に置いてあります
 

―  最近、鈴木さんはウクレレ奏者としても有名になりつつありますが、実際はいつ頃から始めたのですか?

鈴木健太(以下:鈴木)   ちょうど10年くらい前に、バリに旅行することがあって。“とにかく、現地ではのんびりしよう”と思って、何も予定を入れなかったんです。ホテルや、ホテル近くの海辺でダラダラ過ごすだけもいいなって。“でも、ダラダラするって、一体どうすればいいんだ?”と(笑)。それで、ウクレレでも持って行ったら楽しいかなと思い、行きがけに新宿の楽器屋で購入したんです。実際、向こうでポロポロ弾いてみたらすっごく気持ちいいんですよ。ギターをやっていれば、コードも割とすぐにわかりますし。それからはもう、肌身離さず持っている感じですね。手を伸ばせばすぐ届くところにいつも置いています。すごく身近で、気軽な関係というか。

―  ウクレレにもジョージ・ハリスンからの影響があるとか。

鈴木   そうなんです。そもそも、バリへ行く時“ウクレレでもやるか”って思いついたのは、ジョージの影響なんですよね。というのも、彼が「エニイ・ロード」(2002年のアルバム『ブレインウォッシュド』収録)でのウクレレ(正確にはバンジョレレ)使いが、すっごく良くて。以前から、彼がウクレレを愛用していることは知ってたんです。2011年に公開された、『リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』というドキュメンタリー映画でも証言していましたし、ジョージ関係の本などを読むと、とにかく彼はウクレレを常に持ち歩いていたらしいです。車のトランクにはウクレレが積んであり、友人が家に遊びに来るとプレゼントしちゃうくらい(笑)たくさん持っていたとか。そのことが頭の片隅に残っていたから、“ウクレレを弾きながら、南の島でのんびり”というイメージもすぐ湧いてきたんでしょうね。

―  なるほど。

鈴木   ウクレレをやり始めて、割とすぐにニコルズでも取り入れるようになり、レコーディングやライブにも持ち込むようになっていきました。すると、ますます距離も縮まって、いつの間にかニコルズにとって欠かせない楽器になっていたんです。聴いている人も、身近に感じてくれるらしく、“あ、ウクレレだ!”みたいになるんですよ。ウクレレは、やればやるほど、“ちゃんと使える楽器”です。みんな、なんとなくウクレレって“おもちゃの楽器”というイメージがあるかと思うんです。その一方で、例えばジェイク・シマブクロさんのような、超絶テクニックのウクレレも知っている。ものすごいウクレレ奏者と、そうじゃないオモチャとしてのウクレレ、そのギャップが激しくないですか?

―  確かにそうですね。中間がない。

鈴木   そうなんですよ。で、ジョージのウクレレの使い方を改めて聴いてみると、本当に絶妙なんです。ポップミュージックの中で、ウクレレという楽器がどれだけ合うか。あの、何とも言えないかわいらしい音色も魅力なのですが、あのコロコロとした「リズム楽器」としての独特の持ち味は、他の楽器にはないものだと思うんですよね。

―  そういえばジョージって、ザ・ビートルズ時代もインド楽器のシタールを、ポップミュージックの中にいち早く取り入れるなどしていましたよね。それに近い感覚でウクレレを試してみたのかも。

鈴木   ひょっとしたら、そうかもしれませんね。それまでのウクレレは、いわゆるトロピカルなイメージだったりしますし。そう言えば以前、フェスで高木ブーさんとお会いする機会があり、ジョージの話ですごく盛り上がったんです。“何でみんな、ウクレレを使わないんだろう”“ポップスとウクレレの相性は、ちゃんとジョージが証明しているのに”って高木ブーさんも言ってました。

―  『GO OUT CAMP』では、ウクレレのワークショップも行ったそうですね。

鈴木   はい。当日は、こちらで用意していたウクレレの数をはるかに超える数の人たちが集まってくださって。家から持参して参加してくださる方や、このためにわざわざウクレレを購入して参加される方もいたんですね。その時に分かったんですけど、ウクレレを持っている人って日本にたくさんいるんですよ。“家にウクレレがある”という人が、想像を絶するほどいる(笑)。でも本当はすごく身近な楽器のはずなのに、そのポテンシャルを知らずにオモチャとして扱ってるんですよね。買ったときにチョロっと触ってみただけで、押し入れに眠っているケースがほとんど。確かに、ウクレレを「オモチャ」として考えると扱いが難しいかもしれないですけどね。「楽器」として考えると、ギターよりもずっと手軽で簡単に弾けるのに。

―  そこの意識を変えれば、日本人はもっとウクレレという楽器を、身近なものとして楽しめるようになるかもしれませんよね。

鈴木   本当にそう思います。楽器を奏でるって本当に素晴らしいことで、大げさになっちゃいますけど、ひとつでも弾ける楽器があれば、人生に花が咲くと思うんですよ。みんなせっかくウクレレを持っているんだったら、押し入れにしまっておかないで、ぜひ一度向き合ってみて、人生を豊かにしてほしいですね。

―  ニコルズのツアーグッズには、鈴木さん監修のウクレレ教則本『ウクレレでニコルズ!』も売っているそうですね。

鈴木   そうなんです。手始めに、多少弾ける人に向けてのアドバイスと、ニコルズの曲をウクレレでアレンジした楽譜を掲載した教則本をまず1冊作ってみたのですが、それがものすごい反響で。“超ビギナー向けのウクレレ教則本も欲しい”という要望がたくさんあったので、現在制作中です(笑)。

―  それは楽しみですね。

鈴木   ニコルズのファンって、親子で来られる方がすごく多くて。ウクレレってギターよりも安いので、“子供に誕生日のプレゼントで買ってあげたんですよ”ってよく言われるんですよね。本当に身近な楽器なので、親子やカップルで始めたりしても、絶対に楽しい。ウクレレで弾くのに一番簡単な曲は「きらきら星」と言われているんですが、本当に簡単で30分もあれば弾けようになるので、今年のクリスマスあたりにぜひ、ウクレレを買って練習してみてはどうでしょう(笑)。

―  さて、年明けにはニコルズが毎年開催しているニューイヤーコンサートがあります。来年はCDデビュー10年ですし、いつも以上に盛り上がりそうですね。最後に、この10年を振り返っての心境を聞かせてもらえますか?

鈴木   今でこそ、CDをリリースすることが簡単にできる時代ですよね。配信もできるし、そもそもレコーディング自体、パソコンさえあれば誰でもできる。そんな今でももちろん、自分たちのCDをリリースできるということは最高に嬉しいことなのですが、10年前はもっともっと嬉しいことでした。リリース前日の夜なんて眠れないくらい嬉しくて楽しみだったんですよ。全国のCD屋さんに並ぶなんて“夢じゃないか?”って。そして実際にお店へ見に行くと、ポップや試聴機で本当に大きく展開してくださっていて、それは本当に嬉しかったですね。今、自分が音楽を、そしてニコルズを続けている原動力というのは、中学生の頃に父とやったセッションだったり、高校の同級生と初めて組んだバンドのライブの思い出だったり、ニコルズのメンバーと出会ったことだったり…。いろんなことがあるけど、その中でもかなり大きな原動力となったのは、初めて自分たちのCDが出た時の喜びなんですよね。

その最初のミニアルバム『愛に。』があったからこそ、そのあとのメジャーデビューの話があって。その頃から僕らは、“10年後に聴いても恥ずかしくないような音楽をやろう”と。それはレコーディングやライブの度にメンバーと確認し合う、大事な約束事なんですが、まさにその10年がやって来てしまいました(笑)。なのでニューイヤーコンサートは、そのことを証明するような、この10年の集大成的なライブになると思います。

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【鈴木健太が所有するフェンダーコレクション】

Why We Play

■Zuma Concert Uke
南カリフォルニアにある、サーフィンが盛んなズマビーチから名付けられたこのウクレレは、鈴木が愛してやまないFender Telecasterと同じヘッドの形をしているのが大きな特徴だ。サペリ材を使用し、オープンポアフィニッシュが施されたコンサートサイズのウクレレで、他の楽器との馴染みも良い。鈴木のように、バンドサウンドの中でウクレレを弾きたい人にはオススメのタイプと言えるだろう。

Why We Play

■Rosewood Telecaster
2013年に購入し、翌年のニューイヤーコンサートから愛用しているというオールローズのTelecaster。ジョージ・ハリスンが、ザ・ビートルズの「ルーフトップ・コンサート」(1969年1月30日に、ザ・ビートルズが英国ロンドンにある当時のアップル社の屋上で、映画撮影のために行ったゲリラライブ)で使用したことで有名。Telecaster特有の、ジャキジャキとした耳に痛い帯域がまろやかで、シンライン構造による箱鳴りと、硬質で粒立ちの良いサウンドの絶妙なブレンド具合が魅力だという。


D.W.ニコルズ
2009年、メジャーデビュー。男2・女2の4人編成のバンド。バンド名はC.W.ニコル氏公認で交流も深い。結成以来、緩やかながらも右肩上がりにライブ動員数を増やし続け、16年9月には横浜・大さん橋ホールにて単独公演をソールドアウトにて大成功させた。また、ツアーやフェスだけでなく、全国各地のイベントや地域の町おこしイベントなどへも多数出演。さらにはTV番組テーマ曲やCM曲なども手がけ、幅広い活動と親しみやすいキャラクターで、老若男女、ファミリー層も巻き込みファンを拡大中。誰もの日常に寄り添う等身大の歌詞で、時代に流されない普遍的な音楽を、ユーモアを交えながら奏で続けている。2018年にCDデビュー10周年を迎える。

› D.W.ニコルズ:https://www.dwnicols.com/

鈴木健太
栃木県鹿沼市出身。D.W.ニコルズのギタリスト。ギターのみならずウクレレ、バンジョー、ラップスチール、楽曲のアレンジを担当。幼少期から両親の影響で60〜70年代の米英の音楽に慣れ親しみ、フォーク、カントリー、ブルースなどのアメリカンルーツテイスト溢れるプレイが持ち味。また、ボブ・ディランやザ・ビートルズフリークであると同時に、アナログレコードの愛好家でもある。愛器はフェンダーカスタムショップ製のオールローズテレキャスター。また、フェンダーの工房にてカスタムしたB-ベンダー搭載のテレキャスターも使用。2015年より甲斐よしひろのツアーにも参加。持ち味でもあるフィンガースタイルのプレイを中心に、様々なアコースティック楽器をプレイしている。最近ではウクレレプレイヤーとしても活動の幅を広げ、テレビ東京『音流〜OnRyu〜』ではウクレレ講師として登場している。