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ストラトのセレクタースイッチについて

スイッチの機能を学ぶことで、ストラトの多様性を理解しましょう。

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ピックアップセレクタースイッチは、ストラトサウンドの多様性の鍵と言ってもいいでしょう。これは、どのピックアップとどのピックアップを組み合わせて鳴らすかを制御するものです。通常ストラトには3つのピックアップが搭載されている為、セレクターには重要な任務があるのです。

5ポジションセレクタースイッチを例に見てみましょう。これはピックガードの下部分(高音弦側)に取り付けられたブレードタイプのスイッチです。その他のパーツのように、セレクタースイッチの位置にも理由があります。プレイ中にすぐにスイッチの変更が出来る位置にありますが、プレイを妨げる場所では無いのです。

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スイッチの位置を順番に1から5までの番号をつけて説明します。1はトーンノブに一番近く、2-3-4と進んでいくとネック側に倒す感じになります。

  • ▪︎ ポジション1: リアピックアップのみ
  • ▪︎ ポジション2: リアピックアップとセンターピックアップ
  • ▪︎ ポジション3: センターピックアップのみ
  • ▪︎ ポジション4: センターとフロントピックアップ
  • ▪︎ ポジション5: フロントピックアップのみ

※ 3つのピックアップを同時に鳴らすことはできません。


ストラトのピックアップセレクターにはかなり興味深い歴史があります。

ストラトが誕生してから最初の23年間、そう1954年のデビューから1977年までのピックアップセレクターは3ポジションのスイッチでした。リアピックアップ、センターピックアップ、フロントピックアップのそれぞれをオンにすることはできますが、組み合わせて使用することはできませんでした。1度にオンにできるピックアップは1つだけだったのです。「レオ・フェンダーは、個々のピックアップの純粋なサウンドが好きだったのです」自身もギター開発者であったリチャード・スミス氏は、著書「Fender: The Sound Heard ’Round the World」の中にそう記しています。

ギタープレイヤー達は、自分たちのサウンドを確立する為に、ストラトのセレクタースイッチの盲点をつきました。そう、リアピックアップとセンターピックアップ、またはセンターピックアップとフロントピックアップの「中間」のスポットでスイッチを止めることで、異なる2つのピックアップのサウンドを鳴らすことを発見したのです。彼らは、リアピックアップとセンターピックアップを同時に鳴らすことで、独自の豊かなサウンドが生み出されることを学んだのです。それは、センターピックアップとフロントピックアップを一緒に鳴らすことでも得られました。

「The Stratocaster Chronicles: Celebrating 50 Years of the Fender Strat」の著者トム・ウィーラーは自身の著書の中で「プレイヤー達は、ピックアップセレクターを「中間」のスポットで使用すると豊かでファンキーなサウンドを得ることを発見したのです。」と記しています。

また、リチャード・スミスもスイッチを使用して2つのストラトのピックアップのサウンドをミックスすると「エレキギターのサウンドは"鼻が詰まった"様なサウンドになり、そのトーンはミュートされたトロンボーンやトランペットを連想させるでしょう」とも記載しています。

何らかの理由で、ギタープレイヤー達はそのピックアップセレクターの中間の設定を「Out of Phase(位相がずれている)」と呼んでいました。実際は電気的には同相のままなので、正しく無い表現ですが...。

確かにトム・ウィーラーが述べたように、中間のポジションでのサウンドは異なる音に聞こえます。異なる位置にあるピックアップが弦の振動に対して同時に動作する為、特定の周波数を打ち消すのです。「このストラトで一番人気のあるサウンドは、レオの意図したものではなかった」とも述べています。

しかし、ギタープレイヤー達はすぐにそれを使い始めたのです。ローレンスウェルクオーケストラで演奏していたギタリストのバディ・メリルは1955年ごろから既にその"中間のサウンド"を使用していました。ディック・デール、バディ・ガイ、オーティス・ラッシュも初期からそのサウンドを愛用していました。その後、アイク・ターナーや、ロリー・ギャラガーそしてエリック・クラプトン、ロバート・クレイなどの多くの偉大なギタリストがそのサウンドを活用するようになりました。

同様に興味深いのは、ほぼ初期にその"中間"の設定の有効性に気がついたフェンダーが、正式にそのことを認めるまでに14年もかかっていることです。やっと1968年のカタログで「ギタリストは3つのポジション、またはその間の自然なポジションでプレイが可能です」と記載したのです。

1977年、ストラトが発売されてから23年が経ったのち、フェンダーはついに3ポジションから、5ポジションのセレクタースイッチに変更しました。これが今では標準となっています。